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第2部 新しい伝播解析手法

5. 疲労き裂の伝播形態と数値シミュレーション

5.1船体構造における疲労き裂伝播形態
船体構造は薄肉補強板構造であり、疲労き裂発生が問題になり得る箇所は、溶接による板継ぎおよび骨と板の接合部である。主な箇所として連続隅肉溶接止端部、角巻き溶接止端部、板の突き合わせ溶接部、隅角部フリーエッジ等を挙げることができる。角巻き溶接止端部などに発生する疲労き裂は半楕円表面き裂とモデル化できる場合が多いので、き裂サイズと楕円のアスペクト比をパラメトリックに変化させた応力拡大係数のデータが整備されていれば板厚貫通までの伝播寿命の評価ができる。
板厚貫通後の疲労き裂はフランジ材からウェブヘと伝播するが、スチフナ間隔などに比べき裂が短い間は2次元貫通き裂としてモデル化できる。き裂が長くなると隣接部材との相互作用などが生じ複雑な解析を必要とする。船体構造ではウェブの直上の内底板あるいはフランジ材の応力が大きいため、この様な箇所にき裂が入ることが多い。この場合、き裂はフランジとウェブを同時に伝播し、複雑な状況を呈する。フランジが切断後はウェブを伝播するき裂問題になるが、この場合は交差部材や外板との相互作用とともに、溶接残留応力の疲労き裂伝播に及ぼす影響も検討する必要がある。また、部材交差部における応力の2軸性によりき裂が折れ曲がって伝播し、き裂伝播経路の予測が重要になる場合もある。隣接する骨材が同様な損傷を受けている場合とそうでない場合で、き裂伝播挙動がどの程度変化するかの評価も重要な問題である。次節では、これらの問題に対する解決策として新しいシミュレーション手法を提案する。
ウェブを伝播するき裂が外板に進入する際は、基本的にはウェブと外板の隅肉溶接部から表面き裂として外板へ進展する。このような解析はロンジ材などに長い疲労き裂が発見された際、その後船体浸水や荷油漏洩などの機能限界状態に至らぬような運航管理をするために重要な知見を与える。
5.2スーパーエレメントを用いた船殻構造部材疲労き裂伝播形態の数値シミュレーション
手法
(1)き裂伝播シミュレーションの概要
本研究では、部材交叉部を伝播する疲労き裂の最終破損モードの予測と曲進する溶接構造体内のき裂伝播寿命の予測を目的とし、作用応力、き裂伝播経路、溶接残留応力およびき裂伝播部と周辺構造との相互作用を考慮した数値シミュレーション手法を開発し、疲労き裂伝播試験との比較を行なった。特に周辺構造の剛性、作用荷重の影響を正確に表現するために汎用構造解析コードのスーパーエレメントを自動き裂進展シミュレーションプログラムに統合する手法を新たに提案する。
実船の疲労き裂は複雑な3次元構造に取り囲まれた領域に発生するので従来から用いてきた2次元平面領域内を任意の経路で伝播する疲労き裂の伝播シミュレーションプログラムでは対応が困難であった。スーパーエレメント法とは、全構造のある領域を1つの副構造とし、この副構造を1個の有限要素(スーパーエレメント)と考え、その剛性マトリックスを計算し解析に利用するものである。そこで、本研究では、き裂伝播領域の周囲の複雑な構造を汎用構造解析コードでスーパーエレメント化し既存のき裂伝播解析プログラムに結合する手法を開発した。
(2)疲労き裂伝播実験とシミュレーションの比較
シミュレーションとの比較に用いた溶接構造体疲労試験の試験体形状、ノッチ位置、荷重条件を図

 

 

 

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