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4. 保守・点検時の疲労き裂の技術的取り扱い

4.1き裂伝播解析手法に墓づく新しい保守・点検のあり方
船体構造の設計段階では、疲労損傷を防止するために詳細な構造解析を実施し、主要構造の応力集中部について、マイナー則をべ一スとした疲労強度評価を行うことが一般的になりつつある。このような設計の高度化により、疲労き裂の発生は減少の傾向にあるが、一方で、工作精度の影響や波浪荷重等のばらつきにより、設計時には予測できない疲労き裂を経験することがある。しかしながら、船体構造は冗長性を有し、また、き裂が伝播して問題となるまでには時間がかかるため、これら全てのき裂がすぐさま問題となるわけではない。
現在行われている疲労設計法は、荷重推定精度の向上や応力解析技術の進歩等とともに強度評価手法として確立されつつあるが、疲労き裂の発生を安全性判定の基点としているため、き裂が発生した後の挙動や点検・保守といった整備条件については明確に関連づけられておらず、本来、安全性維持の両輪となるべき設計と運用のむすびつきが弱い設計法であるとも言える。その結果、設計のアウトプットとしての疲労強度評価結果は、点検・保守の現場において発見されたき裂が、船体の大規模破壊や機能喪失といった設計者が本来避けるべきと考えている状態(これを限界状態という)に対し、どのような影響度をもつのかという点について、有用な知見を与えることができず、そこで採られるべき処置は、保守管理者の個人的な経験や資質に基づいた判断に委ねられている。個人に依存する保守管理体制は、時として危険な判断であったり、また、逆に過剰な行為であったりする。
このような整備の現場における保守管理のばらつきを是正し、き裂損傷に対する判断技術を上方修正するためには、安全性判断の基点をき裂の発生防止から後述する小事故の発生防止へと変換するとともに、船体構造の特長である冗長性を念頭におき、損傷発生後の余寿命をべ一スに悪性の傷。良性の傷を区別した、合理的で安全性の高い整備を推し進めるべきであり、その達成のためには、本SRで扱われたき裂伝播解析技術が重要な役割を果たすことになる。すなわち、点検時に発見されたき裂について、それを放置すれば重大な事故に至る危険なものか、また、そのような状態に至るまでにどの程度の期間を要するものと予測されるのか、さらに、どのような経路で進展していくのか、等について答えてくれるのがき裂伝播解析技術である。
き裂伝播解析技術に基づいてき裂の評価をすることにより、合理的判断に基づくき裂への対処が可能となる。また、点検の方法や間隔をき裂進展の推定寿命や小事故の重要度に応じて設定することにより、より信頼性の高い点検スケジュールの策定が指向できる。疲労き裂発生防止を意図した疲労設計を、船体構造の安全確保のための一次防壁とすれば、き裂伝播寿命予測に基づき行われる限界状態防止のための保守・点検の新しいシナリオは、安全確保のための二次防壁と言える。
4.2き裂伝播解析技術に墓づく保守・点検のシナリオ
き裂伝播解析技術に基づく保守・点検のシナリオは、以下に示すような作業・検討を経て実現される。(図4.2.1参照)

 

 

 

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