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第一部 疲労き裂についての実用的知見

 

1.船舶の疲労設計と本SR

1.1船体構造の破壊防止の現状
船体構造設計に求められる最も基本的要求は船体構造が破壊。しないことであり、種々の破壊形態について破壊防止が図られてきている。主な破壊形態として脆性破壊、崩壊・座屈、疲労破壊があげられる。
最近の破壊の傾向の特徴的なことは脆性破壊および崩壊・座屈が、20年前と比較して激減していることである。それに比べ、疲労破壊は現在でも残念ながら散見される。疲労破壊防止対策については種々の議論がなされ、例えばVLCCの紺則縦通肋骨のき裂については、水線面直下の設計荷重不足として、対策はとられるようになってきている。さらにその一般化の研究が進められているのが現状である。
そのなかで、SR219の研究は、「疲労き裂の伝播」の特性把握が今後の疲労破壊防止対策のキーテクノロジーとなるべきとの考えにより、「き裂伝播解析手法」の実用化をめざし開始した。以下にSR219研究の背景・意義と概要を示す。
1.2 疲労き裂の判定
疲労破壊はある時突然生じるのではなく、徐々に大きくなって行く性質をもっており、また負荷される荷重の大きさの履歴によって進展の速度が変わる。き裂が実際に水漏れなど運航の障害や、脆性破壊の引金になるまで、長い時間がかかるものである。き裂損傷が発見される割にそのような状態にならないのは、運が良かったのではなく、疲労現象の特徴-時間依存性-に対し現行の点検・検査の間隔が大筋安全側にあるためであると考えることが出来る。
また、微小なき裂が発生していても、普通、船の機能に影響はない。定期検査でき裂を発見するのは、将来放置しておけば重傷になる傷をあらかじめ小さいうちに見つけ、必要な手を打つためである。大多数はそのような考えで良いことは従来の実績が示している。
しかし、将来重傷になる小さい傷の判定基準はなく、専門家の間でもそれは個人の知見に大きく依存している現状である。その判定基準の構築によって、個人に依存しない合理的な保船をめざすべきである。き裂の判定は設計と合理的な保船の重要な橋渡し役となる。これがSR219の原点の一つである。
1.3 き裂発生寿命と破断寿命
疲労寿命は工学的に有意義な概念であるが、普遍的な定義はないのが実状でる。
機械部品では、小型の丸棒試験片で疲労試験を行い寿命を定義している。しかし、試験でのき裂発生の検知は困難であり、一般には試験片の破断時を寿命Nfとし、き裂の発生寿命Ncと区別されないことが多い。
一方、船体構造においては疲労の発生個所は溶接部が大部分であるので、中型の溶接継手試験片の疲労試験が実施されている。その疲労データでは発生寿命Ncと破断寿命Nfは明らかに異なり、実物の船体構造においては、以上の発生寿命Ncと破断寿命Nfの差はさらに広がることが予想され実用的には大いに問題である。
これらの問題の解決には、構造の大きさ、き裂の長さと時間の関係が的確に表現される手法が求められる。その手法は伝播解析手法であり、き裂の伝播(進展、成長)のプロセスを時間軸でシミュレーションする手法である。そしてSR219はこの伝播解析手法を疲労破壊防止対策に導入するための研究である。

 

 

 

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