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緒言

船体構造のき裂(クラック)に関して、「強くて丈夫でクラックのでない船を造ってくださいよ」とか「クラックが見つかったのだけど次のドックまでこのままで大丈夫だろうか」といった会話をよく耳にする事がある。
「クラックのでない船」を合理的に設計できるようになる事は造船屋の夢である。また、かって船体構造の延命化が話題になった時には船の経年変化を考慮した合理的な延命工事の技術的内容が最大関心事となった。ここでのポイントは疲労強度に対する余寿命をどの程度評価しうるかであった。こうした余寿命評価も含め就航船に対してドック時にクラック防止の観点から合理的な保守ができるようになる事は保船面からの願いでもある。
き裂(クラック)の殆どは荷重が繰り返し作用する事により発生する疲労き裂である。しかしながら疲労き裂の発生には作用する荷重の大きさや頻度はもとより、溶接部の応力集中や残留応力等多くの因子が影響する。また、疲労寿命といってもき裂の長さをどの位で考えるかによりその寿命評価が変わってくる。理届上はlmmの長さでもき裂はき裂であるが、実際の船体構造で点検時に見つかるき裂長さは30mmもしくはそれ以上である。種々の影響因子によりこうした長さになるまでに長い時間を要するき裂も有れば、短いものもある。
「クラックのでない船」を考える為にはクラックとは何か(き裂特性)を知っておかねばならない。き裂の発生場所や進展の速度によってはタンク構造からの液体貨物漏れや船体区画への浸水といった重大な事故をひきおこしかねない。こうしたき裂長さになる前に点検・検査時にき裂が発見される事が重要となる。
その為にはき裂がその条件下でどの程度の速度で進展するのか評価できる技術が必要となる。
本研究はこのような課題を明らかにしていく為に「疲労き裂の伝播」の特性把握と「伝播寿命の解析手法」の提案を目的に、設計・保守やこうした現象の研究に携わっている多くの方々の参加の基に実施された。
本報告書は、研究の成果をより多くの人に理解して頂く為に第一部で「疲労き裂についての実用的知見」を述べ、多少専門的になるが本研究の新規的成果として第二部で「新しい伝播解析手法」について概説した。

 

 

 

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