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7. あとがき

平成6年度から3年間にわたる「自動運航システムの評価」の研究が終了した。この研究の目的は、高度に発達した航海情報機器や制御システム、いわゆる自動運航システムの現状が人に優しいものであり、それが海難事故の大部分を占めるといわれるヒューマンエラーの減少に役立っているのかどうかを検証し、その結果をさらにヒューマンフレンドリーなシステムヘの発展に役立たせ、船舶の安全航行および海洋環境の保全に寄与することにある。
研究の結果は本文で縷々述べたように、今回研究のために構成された自動運航システムは、実験データから、安全性、効率性ともベテラン船長が操船する在来船と同等であるとの評価となった。操船負担に関しては在来船より非常に小さくなっていることがわかり、全体として安全航行に寄与できることが証明された。また実験に携わった操船者からはIBS船は在来船より運航の難易度が良好であることから運航システムの支援は極めて有効であり、操船負担を軽減するとのアンケート結果を得、特に情報収集や解析の支援として非常に有効であると評価された。したがって今後国際的な場を通して、この研究の成果をPRするとともに大いに活用する事を考えて行きたい。
以上のように本研究は船舶の安全と海洋環境の保全のためにという初期の目的をほぼ達成して成功裏に終了したが、時あたかもロシアのタンカー、ナホトカ号の油流失事故が発生し、大量の油が日本海沿岸の広域に漂着して多大の損害を与え、今なお手作業による油除去が続けられている。ナホトカ号の船体折損事故がヒューマンエラーによるものかどうかは今後の事故調査によらなければならないが、気象・海象状況に関連する荒天操船と関係あることは言を待たない。一説によれば28年の船齢という老朽化によるものとも言われるが、このような老朽船を就航させる事自体が船隊管理機構のヒューマンエラーかもしれない。かって行われた「知能化船の研究」では船体監視システムの研究として荒天航海での安全操船システムを構築したが、このようなシステムを自動運航システムの中に組み込んでおけばこの度のような大事故とはならなかったかもしれない。この事故を他山の石として、今後の自動運航システムに船体監視システムを応用し、さらに機能アップしたいものであるとともに、ポートステートコントロールなどを活用した大所高所からの船体管理システムも考えて行く必要があろう。
最後に、本研究のために労を惜しまず献身的な努力をして頂いた委員諸氏に深甚なる謝意を表する次第である。

 

 

 

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