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5.7 自動運航システムの評価研究の成果

5−7.1 操船結果から見た自動運航システムの評価
本項では、操船シミュレータで行われた操船結果から見た自動運航システムの総合的評価を述べることとする。
今回の操船実験は種々の航行条件における自動運航システムの評価を行うことを目標としている。以下に総括的な自動運航システムの評価をまとめる。
(1)自動運航システムの有効性に関する評価
自動運航システムは避航の開始時期、他船との最接近距離などの衝突回避操船における基本的な安全性について、人間が操船する操船状況をほぼ同等に実現できることが確認された。
また、衝突回避のために発生する、迂回による航程の増加や減速による航行時間の延長などの操船の効率面を見た場合、評価対象である自動運航システムの固有の特性として、減速よりも変針避航を優先して選択する特性がある。このために、人間の操縦では減速操船を行うのに対し、システムは変針避航を行い迂回経路が長くなる傾向が認められた。しかし、この現象は狭水域での避航操船などに見られる他はあまり顕著に現れてはいない。
支援システム導入の目的の一つに操縦者の作業負担の減少がある。不適切なシステムの導入は逆に操縦者の負担を増加する可能性もある。そこで、作業負担の変化を針路の変針回数の変化と速力操作の代表量としての主機操作回数の変化の二点から評価した。前述の通り、システムが選択する避航手段の優先度は変針避航が高いために主機操作回数はシステムを用いるときに少なくなる。しかし、変針避航を優先するシステムの支援状態においても、必ずしも変針回数は増加しない結果を得た。これはシステムの推薦する変針や復針の操作が小刻みに行うものでなく、適切な時点に一度期に大きく行う結果として現れたものである。以上の結果から操船負担において、自動運航システムは在来の運航形態に対し、操船者に与える操船負担は減少することが確認された。
船舶運航の中で特に次の四点に関し、自動運航システムの有効性を操縦者に聞き取り調査した。避航対象船を含む自船周辺を航行する他船の動静把握、時々刻々の自船の船位取得、衝突危険船に対する避航操船方法、自船の航行計画並びに避航のための変針操船、以上四点である。これらの各機能は自動運航システムを開発するに当たっての主要な支援目標項目であり、この聞き取り調査は開発目標の達成度を操縦者の観点から評価するものである。調査の結果は各項目においてシステムの有効性は評価されており、特に他船の動静把握と自船船位の推定に関し高い有効性が指摘される結果を得た。
(2)自動運航システムに関する今後の課題
a)今回調査対象とした自動運航システムにおいて、変針による避航操船に高い優先度が設定されているが、機関操作による増減速を利用した避航方法が適する操船場面もあることから、変針と増減速を併用した複合的な避航方法の採用も含め検討する必要がある。
b)自動運航システムの使用に当たっては、沿岸域と狭水域、昼間と夜間、晴と霧、船舶輻輳度の差(高密度と低密度)等による航行環境の変化に対応した適切な設定値及びその調整方法に十分配慮する必要がある。
c)航行船と停泊船ではその運動の推定の確度に違いがあり、人間による操縦ではこれによりそれぞれに対する避航方法に差が生ずるのが一般的である。自動運航システムにおいてもこの点の考慮が今後必要と思われる。
以上の判定から、自動運航システムの安全性及び効率性に対する効果は在来船とほぼ同等の操船状況を実現でき、在来船と同程度の安全性及び効率性を維持していることを確認することができた。IBS船の評価が在来船に比較し下回る結果となった評価指標もあるが、前項で示した自動運航システムに不足している機能を付加し適切な調整を行うことにより、在来船と同等あるいは在来船以上の安全性及び効率性を確保できると考えられる。
一方、操船負担についてはlBS船は非常に有効であることがわかった。
このように自動運航システムの有効性を安全性、効率性、操船負担の3点から評価した場合、総合的に見れば自動運航システムによる操船の援助を受けることによって在来船と同等の安全性及び効率性を維持しながら、操

 

 

 

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