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り相手船の位置、針路、速度、経由地点、船種、積荷などの情報を取得して、ARPA情報の補完とすることが可能である。
この場合、狭水道などの沿岸域では、DGPSの環境が比較的経済的な方法で実現可能であり、そのようなインフラの整備が進められている。
この場合の相手船の位置精度は数メートル程度が確保されるので、ARPAの物標位置の補完と識別の取得に加えて、変針予定場所などの相手の意思も得ることができる。
具体的な実現方法としては、自動運航システムの表示画面上の物標を電子カーソルで選択し、電文種別を選択し、送信起動ボタンを押すことで相手側のシステムから情報を読みだし、自動運航システムのリストに内容を表示するとともに、識別マークを物標脇に付加するような方法が技術的には可能となっている。
また、電文種別を電話チャンネルでの応答を求める内容のものを選択すれば、担手船は電話で応答し、呼び掛けてくるようにさせることもできる。
別の補完方法としては、VTS(Vessel Traffic Service)のサービス海域内において、基地局の通信管制により、1分間に2,000隻程度の船が自船情報をVHFで伝送することで、これをVTC(Vessel Traffic Center)において管理し、安全航行の支援を実現する方法である。
このためには効率の良い通信方法が必要であるが、各船が持つGPS受信機から得られる10 -7という高精度の時計(UTCに対する絶対精度)を用いて、各船の通信スケジュールを時系列的に管理することで実現が可能である。
この通信体系のもとでは、情報の放送という手段で他船の情報を全部取得することもできるので、VTCで管理される対象海域全体の船舶情報と同じものを各船が持つことも可能となり、VTSに依存しないで、各船が自立的に海域の船舶情報を利用しながら航行することもできるようになる。
この研究における他船からの情報取得については、トランスポンダでシミュレータの他船データベースをそのまま表示したに留めたため、トランスポンダの持つ可能性が特に目立ったものにはなっていたとはいえなかったと判断する。
しかし、現在世界的な規模で整備が進められているGMDSS体系への移行により、船舶の無線通信手段が自動化されるので、この中で規定されるVHFトランスポンダにより船外からの情報の自動取得が容易となり、これを自動運航システムに供給することで、より精密で、かつ、多様な情報が提供できるようになる。これにより船外からの情報も含めた、より高度な自動運航システムが実現でき、より確実な避航操船が可能となるような展開が期待できる。

 

5.3 自動運航システムの構築

自動運航システムは、操船、見張り等の操船者が船橋において行う航海業務を支援し、船舶の安全運航、多忙な操船者の負担軽減、ヒューマンエラー排除を図る目的で構築されている。特に本研究において構築された自動運航システムは、船舶海難事故の原因の大半を占めるヒューマンエラーの低減を狙い、座礁・衝突予防に重点を置いて、操船者への的確な情報提供と効果的な避航操船支援を実行できるように設計されている。
自動運航システムの設計方針は、次の通りである。
・船内の航海計器・機器、監視装置、センサ類、操船装置等を連接し、航海・操船情報を統合・一元化する。
これにより、操船者は1ヶ所で効率的かつ効果的に操船判断に必要な情報の取得が可能となり、操船者の船橋内での動線の短縮や作業余裕の確保を図る。

 

 

 

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