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5. 得られた成果

5.1 海難事散の現状と自動運航システム5.1.1 海難事故調査

海難審判庁発行の「海難審判の現況」による、海難事故発生状況の内訳を見ると衝突、座礁(乗揚げ)による事故が大きな割合を占めており、大型船ほどその傾向が強くなっている。世界的にも有名な大型タンカーの事故例を見ても、座礁事故は天候・海象等の環境条件とハードウエアトラブル、ヒューマンエラーとが重畳した場合に多く起こり、また、衡突事故はいずれも海上交通の輻輳する場所で起こっており、2隻の相対的位置状況、操縦性能を互いが正しく把握し、避航動作の意図を確実に伝え、正確な協力動作をとることが不可欠である。これらの状況を背景に「衝突・座礁防止対策の現状」について主として外航船社に対しアンケート調査を行った。
5.1.2 アンケート結果と分析
(1)衝突・座礁予防について
衝突予防の面から見た現状のRADAR/ARPAの機能に80%以上が満足していない。その理由としては、「ARPA計算機能(CPU)の性能が悪い」「RADAR信号の質が悪い」「操作パネルが複雑で使いにくい」などが挙げられている。それらを補う手段として、「見張りの強化」「VHF等の通信手段による相手船との動静確認」などを行っている。
また、RADAR/ARPAの他に衝突予防に効果的と思われる装置として「船名、船種、総トン数などの固定情報や、船速や進路変更などの行動変化情報を何らかの手段で相互に送受できる装置」とか「種々の航海データを操船者が容易に判断しやすいように加工した表示装置」などを挙げている。
座礁予防装置としては現時点では明確に有効な装置はないもののGPSなどの測位装置により海図上における本船の正確な位置を即座に把握できるチャートプロッタや電子海図を間接的座礁予防装置の支援ハードとして採用している例がタンカーなど特に深喫水船に多く見られる。
(2)乗組員の教育について
上記のハード面のみでなく、装置を操作し安全運航をキープするために必要な教育・訓練いわゆるソフト面の支援も衡突・座礁予防の大きな鍵になっている。機器操作に対する熟練度、避航操作に対する判断力などもこれらの事故を未然に防ぐ大きな要素をもっており、多くの船社で特に乗船前の教育を行っている。
(3)ユーザー側から見た自動運航システムについて
ユーザー側(操船者)が考える今後の自動運航システムに対する許容範囲(大洋・沿岸・狭水道・港内の各航海モードと自動化機能との関わりにおいて。どの範囲まで、どこまでシステムにまかせられるのか)についての意見として大洋航海中の広い海域においては、測位装置の位置精度が高いこと、RADARの高性能化を条件に、船位・保針・見張りまでの自動化は可能になると考えるが、沿岸航海中・狭水道・港内などの船舶輻輳海域では、他船の予期せぬ行動や機器の信頼性などを考えると、見張り・避航を含めた100%信頼できる自動運航システムが開発されるとは考え難く、人間の判断を介在させる必要があり、自動運航システムはあくまでも操船者に対する援助装置として位置づけている。
5.1.3まとめ
現場の運航に直接携わっている多数のユーザーの意見としては、事故防止対策として現状装備されている機器の性能レベルの満足度は低く、当直者の技量に頼る部分が多いこともわかった。ユーザーが今必要としているのは、RADAR/ARPAの基本的性能の向上や、海図上における自船の位置の把握、相手船の固定情報や動きに関する情報であって、すべて機械に頼る自動運航システムを望んでいるわけではないということである。
自動運航システムは、あくまでも船長・航海士に対するより安全な運航を支援するシステムであり、自船の周囲

 

 

 

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