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2. 研究の目的

海難統計によると、日本における年間の海難数はここ数年間の推移として、わずかずつではあるが減少傾向が続いているものの、依然として毎年約10,000件もの海難が発生している。そのなかで、重大事故の過半数が衝突・座礁等の航海事故であり、その原因の大部分がヒューマンエラーによるものと分析されている。いかに技術が発達し、船体構造部が強化され、また各機器等が進歩しても、それを取り扱う人間の過失すなわちヒューマンエラーを減少させなければ根本的な解決方法にはならず、船からの流出油が及ぼす海洋環境の汚染やそれによって社会へ与える影響もなくならないと考えられる。現状では操船者への適切な情報提示と避航に対する航海補助手段が確立されておらず、かかるシステムの開発と実用化のための評価が緊急に要望されている。
そこで、近年技術開発が著しい航海情報機器すなわちGPS、電子海図、トランスポンダ等個々の情報・技術を統合処理の上使用し、自動避航を行う事により、衝突・座礁等の航海事故防止システムを構築し、ヒューマンエラーによる事故頻度を減少させる研究を行い、船舶の安全航行及び海洋環境の保全に寄与することを目的とする。

 

3. 研究の目標

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研究目標として4つのテーマを設定し、以上のようなフローで研究を進めていくこととした。本研究の評価対象として、現在の海難事故の最大要因と考えられているヒューマンエラーを最も少なくするような自動運航システムの必要機能要件を取り纏めた。具体的には、航海計画、操船、監視など航海者の航海業務を全範囲に亘って支援することにより、衝突・座礁防止を重点に置いた船舶の安全運航と多忙な航海者の負担軽減を目的としたシステムである。
先ず海難事故がどのような原因で発生し、ヒューマン・ファクターとどのように関わっていたかを解明するために、海難審判の資料により海難事故発生状況と合わせて調査をし、また船舶会社及び学校に対しアンケート調査を依頼し、衝突・座礁等の航海事故防止対策がどのように講じられているかも調査した。それらを踏まえ統合的な自動運航システムの概念設計を目指し、航海情報機器の現状に見られるような単に計器相互の信号のやりとりだけでなく、情報提供の一元化、情報の精度向上、トランスポンダによる情報の交換、シンプルなヒューマン・インターフェイスを確立させる。
この自動運航システムが、人間の機能を大部分代行することでヒューマンエラーを補い、常に最適な運航システムを形成するというこの研究の目的を達成しているか、或いは不十分な点はどこにあるのかを評価する必要がある。そのためには、様々な状況が発生する現実の操船環境の中でシステムの評価を行う事が望ましいが、安全性や効率性を考えると困難な点が多い。したがって本研究会においては、現実の状況を忠実に模擬再現する大型操船シミュレータを用いて、システムの評価を行うこととした。

 

 

 

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