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5. 成果の活用

我国造船業界に求められている最大の課題は、国際競争力の維持。強化であり、これを達成するための課題として以下の問題がある。
1)構造設計のレベルアップ
2)設計・開発研究の高効率化
3)新技術対応と新需要創出
何れの課題達成にも船体構造力学の果たすべき役割は大であり、疲労強度、座屈最終強度、き裂伝播等の分野で進歩が著しい現在、残留応力と構造強度の関係というテーマは避けて通れない問題であった。
本研究部会では重要ではあるがその難しさ故に長い間本格的に取り組まれなかった残留応力のテーマに挑戦し、船体構造における残留応力の実態を調べ、実用的な残留応力の推定システムを提案し、構造強度に及ぼす残留応力の影響を検討した。
残された課題は種々あるが、現時点での活用法から将来の研究への活用法について述べる。
(1)残留応力の大きさ、分布を知るツールとして:
まず第一に、船体構造の残留応力の現状をもっと知る必要がある。本研究部会ではコンテナ船二重底の残留応力の計測を行いその実状が明らかになったが、提案した残留応力の推定システム(計測法と解析法を有機的に結びつけた物)を活用してもっと多くの船の種々の構造における残留応力を調べ、船体構造における残留応力マップ、残留応力データベースを作成し、強度評価と解析のための基礎データを積み上げていく必要がある。
(2)構造強度解析精密化の為のツールとして:
現行の構造強度検討では静的な強度評価のみならず疲労強度、座屈最終強度、き裂伝播等の解析評価が行われて益々精密化が進んでいるが、残留応力の影響は殆ど考慮されていない。本研究部会の成果の「構造強度に及ぼす影響」の手法を今後さらに発展させ、構造強度解析の精密化を行う場合の有力なツールとして活用が期待出来る。
(3)合理的な構造設計を行う為のツールとして:
船体構造の設計を行う際に工作精度、溶接施工要領等を考慮して残留応力を推定する事が可能となる。また、建造中の組立、搭載、水圧試験等を考慮して完成時の残留応力の推定が可能となる。最近は就航後の強度評価に用いるための外力の与え方についても研究が進んできているので、今後は、それらを応用した船の一生の間の残留応力の変化を求めて合理的な船体構造強度評価に活用出来るようになるであろう。以上の様に本研究成果は今後さらに発展させる事により構造設計のレベルアップ、設計研究の高効率化、新技術対応と新需要創出へのツールとして役だっていき、我国造船界の課題である国際競争力の維持・強化に大きく貢献して行くことであろう。

 

 

 

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