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2.研究の目的と目標(研究の必要性とねらい)

近年、地球環境保護の大きなテーマのひとつである大気汚染対策として、船舶においても排気ガス中の汚染物質の削減が検討されている。IMOにおいても1991年1月の総会で「2000年までにN0x、SOxを現状レベルの30%、50%削減する」ことが決議され、海洋環境保護委員会(MEPC)、バルクケミカル小委員会(BCH)などで、MARPOL73/78条約の新付属書の中に組み入れるべく審議がされ、1997年秋頃にも決定の見通しとなっている。
なお、排気ガス中の汚染物質としては、大きく分けて、燃料中の硫黄分が酸化されて生じる硫黄酸化物(以下SOx)と、大気中の窒素が燃焼室内で高温酸化されて生じる窒素酸化物(以下NOx)とがあるが、前者は使用する燃料にのみ起因するので燃料中の硫黄分の規制となっている。後者については、機関の製造時、これを搭載した船舶の海上試運転時、就航後の一定期間毎等に検査が行われる方向である。
しかしながら、この船舶からの排気ガス規制の動きに対して、これまで舶用機関及び船舶での排気ガス性状(特にNOx濃度)の計測が行われた例は少なく、また機関製造者及び造船所間で統一した計測手法の確立もなされていなかったため、規制への対応可能な条件が充分に整っているとは言えなかった。
このような船舶からの排気ガス規制の動きに対して、現状の舶用主機関の排出NOx濃度の実態を把握して、相互に比較検討が行えるように、計測方法・解析方法等の計測手法を構築することが強く期待されていた。
また、計測手法を構築する際には、国際的に認められるであろう基準に準拠して行うことは当然として、実際の作業においては計測実施者の混乱を極力なくすためにも、予め計測結果に影響すると考えられる項目についても比較検証を可能な限り実機を使用して行っておくことと、算出方法・計算方法についても他の方法との比較を行っておくことに配慮した。
海上試運転及び就航後の計測に係わる関係者からは、陸上と比べると厳しい船舶の機関室の温度・湿度環境で作動して、且つ、携帯することが可能なポータブルな計測計器の実用化の検証も望まれていた。

 

一方、従来から船舶に搭載して推進に用いる主ディーゼル機関(以下、舶用主機関)では、海上試運転や就航後の状態で計測した機関諸元の値は、機関製造時に陸上(工場)試運転で計測された値と比べて若干の相違を示すと言われてきた。この要因としては、使用する燃料性状の違いによる差や、波浪による軸トルクの細かな変動、実際の運転点がプロペラマージン分だけ理論舶用特性より過回転になること等、いろいろな理由が述べられてきたが、まだはっきりした説明は為されていない。
加えて、排出NOx濃度は機関の燃焼状態によって大きく変化すると言われているが、これらの運転条件が変わった場合や、運転の周囲条件が変化した際に、具体的にどの程度の相違を示すのか、また就航後にどのように変化して行くのかを示したデータすらなかった。近年、主機関の製造者では、排出NOxを削減するための技術開発が研究室内及び工場内で行われてきたが、先に述べたように、船舶での排気ガス規制が「海上試運転時及び就航後にも検査する」ことになった場合は、陸上試運転からの変化の傾向や影響について予め考慮する必要性が生じている。
本研究部会では上述の要請に対して、前述の統一した手法を用いて研究参加各社の実際の製造機関及び建造船を使って、陸上試運転、海上試運転及び就航後の3状態での機関諸元の計測を行い、それらのデータ値を比較すること、各データ間の相関を比較することで、運転条件の違いによって相違が生じる理由及びその

 

 

 

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