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度不足と思われる部材を使用するものもあり、正しい構造設計の、しかも漁船建造所の実態にふさわしい部材寸法の基準作りが必要となった。
昭和53年(1978)12月、(社)軽金属溶接構造協会では、将来大きな需要が見込まれる小型船舶、特に漁船が中小造船所で建造されるとの予測に立ち、適正利用を図ることが急務であるということから、アルミニウム合金船委員会を設け、構造及び工作法の基準を作成する作業を進めていたところ、昭和58年(1983)、(社)漁船協会がアルミニウム合金製漁船構造基準を作成するため、アルミニウム合金製漁船研究会を設けた。(社)軽金属溶接構造協会は、約5年をかけて構造基準(案)及びその解説を分担して作成した。
漁船船体をアルミニウム合金製とすることは、アルミニウム合金の軽量であるという性質を生かして、性能の良い、経済性の高い船を実現し、建造船価の高くなることをカバーしなければならない。一方、漁船のその運航状態、操業状態の特殊性から特に頑丈に造らなければならない。
これまでのアルミニウム合金船は軍用、官庁用又は旅客交通用など性能向上を第一とし、丁寧な操船を暗に期待したものとして発展してきた。委員会は漁船基準作成に当たって、このようなアルミニウム合金高速艇関係技術者と、漁船建造技術者と、それぞれ実態認識統一に時間をかけたため意外に時間を要し、昭和63年(1988)に至ってようやく原案をまとめることができた。
高速艇の基準作成は限界設計をねらった実艇を波浪中で走らせて、外力や部材の応力を計測し、艇の発展とともに次々と基準を改正して今日に至ったのである。これらの実艇試験のほとんどは防衛庁の建造予算で晴れたものであるが、漁船の場合には、そのような大掛りな実船実験は予算の面からもできないし、時期的にも実験期間をとることは難しい。また、現実に建造されたアルミニウム合金製漁船の構造や使用実績についても、十分な資料の入手は困難であった。さらに鋼製漁船の構造基準はアルミニウム合金で建造を予想される程度の漁船より大型のものを主として取扱い、また、その速力も今日の小型漁船の実態に比べてかなり低速のものが対象になっている。
ここで取扱う漁船は多かれ少なかれスラミングを起こすものとして考えておかなければならないが、この程度の漁船の操業状態で、どの程度のスラミングを考えておくべきかを決定するのも難しい問題である。
鋼製漁船構造基準から逆算した有効水圧を漁船として要求される基本的外力とし、入手できた数少ない実績あるアルミニウム合金製漁船の構造から逆算した有効水圧との差をスラミングによる増加外力と考えることとし、ヤング率が鋼の約1/3であるというアルミニウム合金の特性から来る鋼構造との考え方の相違を織り込んで原案を作成した。
高速艇構造に関しては、剛性の低いアルミニウム合金構造先導で鋼構造も規制されるので安全サイドにあると考えてよいが、漁船構造については既に頭に入っている鋼構造の常識がある。逆に、これに囚われていると意外なところに落し穴があるから、くれぐれも注意が必要である。このような欠陥の主なものはハードスポットによる割れの発生である。また、剛性不足による構造部材の変形、特にスチフナの倒れによる断面係数減に注意しなければならない。

 

 

 

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