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1.はじめに

 

(財)日本小型船舶工業会が毎年各所で開催している「小型造船技術講習」の一環として、アルミニウム合金船建造技術講習を始めたのは昭和55年からであるが、この講習に使用する指導書として「アルミニウム合金船建造技術指導書」が昭和55年に初めて刊行され、その後の改訂を経て平成6年には第7版が出版されている。
この技術指導書は現場工作法に重点を置いたもので、単にアルミニウム合金船の工作のみならず、金属薄板構造船の工作法の指針として好評であったが、設計についてはごく簡単な記述しかなく、さらに上級の技術を習得したい人のために「設計編」を平成元年に出版した。
外洋で使用するアルミニウム合金船は、昭和29年の15m型巡視艇以来発展して昭和54年には全長55mの高速旅客船が建造され、また、海外では1986年に22mのバージンアトランティックチャレンジャー?U(Virgin Atlantic Challenger?U)が大西洋を80時間半で横断する、という時代となった。漁船の分野でも、我が国においては近年多数のアルミニウム合金船が建造され、漁船協会が「アルミニウム合金製漁船構造基準(案)」を作成するに至った。
基準作成作業の経過を通じて漁船としてのアルミニウム合金船のあるべき姿が明らかになり、今日まで長期間にわたって開発してきた高速艇構造と、漁船構造との両面を包含した設計指導書が「設計編」初版であった。一方、平成8年1月から新たにIMOの「高速船の安全に関する国際規則」が発効したのを受けて、「高速船構造基準」が施行された。これを「設計編」に織り込むとともに一部を改訂したのが本書である。
外洋を行動する小型船の受ける波浪外力はきわめて複雑であり、今日でもまだ解明の不十分な点が多々残ってい乱造船挙は経験の工学だというが、小型船造船学については特にその性格が強い。本指導書は過去40年間余の開発努力によって蓄積された経験に基づいて、アルミニウム合金船の設計法を述べたものである。設計者は、波浪外力を理解し、その船の使用条件を十分に考えて適切な判断を下さなければならない。
アルミニウム合金は鋼などに比べて高価な材料であり、工作にも鋼以上の設備と工数とを必要とする。それにもかかわらずアルミニウム合金船を建造するのは、アルミニウム合金船がその他の材料による船と比べて軽量であり、それだけ性能が高く、かつ、経済的価値が高いからである。
この利点を生かすためには船体構造に無駄な材料を使わず、不必要な工数をかけない心がけに徹しなければならない。
一方・強度不足で事故を起こすようなことがあれば、例え、それが重大な危険を引き起こすものでなくとも、今日の情報過多の時代にあっては、どんな誤解が世の中に広まるか分らず、そのためにアルミニウム合金船の前途を閉ざすようなことにならないともかぎらない。設計に当ってはその兼合を考えて、きわめて慎重、かつ、大胆でなければならない。

 

 

 

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