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以上であるから、完全な溶接が施行されると溶着金属部は母材と同程度以上の強さを、理論上は持っている。
b)ボンド部は、ちょうど融点まで加熱されてすぐ冷却の始まったところであるから、冷却遠度が最も大きく、従って、硬くて吸収エネルギーが最も小さいはずである。
c)熱影響部はA1変態点(723℃)以上に加熱されたために顕微鏡組織と機械的性質が著しく変化している。ボンドに近付くにつれて硬さは増している。
d)ぜい化領域は熱影響部に隣接して、200〜700℃に加熱された部分である。顕微鏡組織に変化は見られないが、機械的性質に変化が認められるので、これをぜい化領域という。
4.1.5 いろいろなガスの影響
a)水素:鋼中に過飽和に水素が含まれると、一般に鋼はもろくなる。そして、溶接部にビード下割れ、トウクラック、気孔(プローホール)や、銀点、線状組織などの以上組織を発生させる。鋼中のほとんどすべての水素は、分子状(H2)ではなくて原子状(H)として溶け込み、原子半径が小さいので自由に泳ぎまわることができる。この水素のことを拡散性水素という。
鋼の結晶中に溶解した水素は、割れとか気孔及び非金属介在物などのまわりに到達すると原子状から分子状に変わり、もはや結晶中を拡散できない状態になる。これが欠陥に継ながってくるわけであるが、予熱を十分に施してやれば、冷却途上の水素は拡散して欠陥を招かないが、いずれにしても溶接棒を十分乾燥させて、開先を清浄にし、水素を極力少ない状態にして溶接する必要がある。
b)窒素:鋼中に窒素含有量が増すと引張り強さは増加するが伸びと衝撃値が低下してもろくなる。窒素の根源は、大部分が空中の窒素であるから酸素など他の気体も混入しているはずである。アークの完全なシールドが必要である。
4.2 残留応力と変形
溶接継手の溶接線上の残留応力は、最大27kg/mm垣程度の値を示しており、これを軟鋼材の降伏点(通常25〜30kg/mm2程度)と比較すると残留応力の最大値が母材の降伏点と同程度の高い値であることがわかる。また、場合によっては降伏点を超える値となることさえある。これを船体の溶接継手の設計応力(10〜13kg/mm2)と比較すると、設計応力よりはるかに高い応力が船体に残留していることになる。このような高い残留応力が構造物の使用状態における特性に影響を及ぼすのではないかという疑問は当然残されている。
しかし、種々の場合について残留応力の影響を考慮に入れて強度計算を行うことは殆ど不可能に近い。そこで、船体の溶接建造にあたって、残留応力に対して次のような配慮が払われている。
a)重要な強度部材では、残留応力ができるだけ小さくなるように溶接順序及び建造順序を考える。
b)切欠きじん性のすぐれた材料を使用し、船の使用温度範囲で残留応力の影響が事実上ないようにする。
c)溶接部に割れその他の欠陥の生じないように施工する。
d)場合によっては適当な応力緩和を施工する。

 

 

 

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