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(4)民族紛争
1980年代後半、旧ソ連はゴルバチョフ共産党書記長(後に大統領)の登場により、経済開放、情報公開という新しい路線に転換し、1989年12月のゴルバチョフ・ブッシュ首脳会談(マルタ会談)では東西冷戦の終結が宣言された。その後ヨーロッパの旧東側諸国が相次いで共産主義を放棄、東西ドイツが統一されるなど、急速に世界の政治的枠組みが変化してきたが、その中で、無視できない副産物がいくつか表面化した。その最大の問題が、政治思想的統一理念を失った中での、世界各地での民族問題の再燃である。チェコとスロバキアの分裂、旧ユーゴスラビアの内戦・崩壊とその後のボスニア問題、その他、ロシア、インド、インドネシアなど、世界各地で民族の独立問題や、特定の宗教や政治思想グループが政府を転覆して政治的主導権を握ろうとするなど、紛争が激化している。
東西冷戦の終結は、核戦争による地球の完全な滅亡を回避するものとして、過去10年間でも最も大きな政治的事件であり、世界中がこれを歓迎した。しかしこれで世界が一つになったわけではなく、むしろ個別の国や地域が抱える民族問題の表面化により、著しい自然生態系の破壊を引き起こす戦争が多数起こっている。しかも今の国際社会が、特定の民族を滅亡に追い込むことを容認するはずはなく、問題は長期化し、骨肉の恨み合いの因縁はむしろ深まっている。

 

(5)「持続可能な開発」と途上国
オゾン層の破壊が進めば近い将来に野外の草本植物は紫外線焼けで育たなくなり、人類は深刻な食糧不足に陥る危険性がある。またCO2排出量がこのままの速度で増大すれば、21世紀半ばには地球の気温が平均1.5〜3℃程度上昇し、気候帯の急変により、地球的規模の砂漠化が進行する。そして海洋汚染、酸性雨、生物多様性消失....我々が緊急に社会の転換を図っていかなくてはならないのは明らかである。
1972年のストックホルム会議以降、キーワードとして使われている「持続可能な社会」の実現という用語は、大量消費・大規模生態系破壊の地球規模での見直しを意味する。しかしこの用語も、UNCEDでは「持続可能な開発」というテーマに置き換えられてしまった。開発(Deve1opment)とは、発展とも訳すことができるが、会議のテーマとしては、環境悪化への防止や、環境問題の改善に対するこれまでの先進国の責任を追求・反省し、地球環境間題の解決を図っていくことと、発展途上国側に、先進国並の環境規制を強いてしまうために発展を滞らせないように、さまざまな行動計画において途上国の立場に配慮あるいは規制をかけない方向がはっきりと打ち出された。これからの国際経済を考えれば、たとえばCO2の削減は世界全諸国・地域が共同して進めるべき緊急の課題だが、これについても途上国は削減努力を約束しただけで、先進各国のみが、削減の数値目標の対象とされた。
途上国の発展の保証をどう扱うかが、これからの環境間題の新しい緊急課題である。

 

 

 

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