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●外来種の増殖
野生生物の絶滅には様々な要因が考えられるが、意外に認識されていないのが、本来そこにある自然の地域特性を無視して持ち込まれた外来種による在来生物相の撹乱である。1986年にIUCN(国際自然保護連合)は、脊椎動物の絶減危機要因の19%は私たち人間が他地域から外来種を不用意に持ち込んできたことにあるとする報告書を出し、全世界に向かって警鐘を鳴らした。日本でも外来種による生態系の撹乱と種の絶滅が大きな問題となりつつある。大正時代以降に日本に移入されたアメリカ産の魚、ブラックバスやブルーギルが異常繁殖し、在来の淡水魚を脅かす被害が最近顕著に見られる。どちらも食欲が旺盛で、ニゴロブナやハゼ、エビなど日本在来の淡水魚に対する食害が目立ち、漁業場も大きな被害を受けている。また、ニッポンバラタナゴなど日本在来のタナゴの仲間は、中国原産のタイリクバラタナゴとは亜種関係にあるため、交雑が進み、ニッポンバラタナゴの純系種は今や絶滅寸前である。一方、哺乳類に関しては、ヌートリア、アライグマ、ハクビシンなど外来の19種が、大都市周辺で定着していることも確認されている。これらの動物の中には、伊豆半島で増えているタイワンザルのように、農作物を食い荒らして被害を与えている例もある。

 

(2)水の破壊と生態系について
●酸性雨
酸性雨とは、石炭や石油などの化石燃料の燃焼によって硫黄酸化物や窒素酸化物などの汚染物質が大気中に放出され、大気中や雲水中の物質と複雑な化学反応を繰り返すことにより、酸性度が強くなった雨のことを指す。つまり、酸性雨が降るのは、石油や天然ガス、石炭などの化石燃料による大気汚染が原因であり、先進国が物質的・経済的に豊かな社会を維持するために膨大な資源やエネルギーを消費してきたそのツケが、大気汚染・酸性雨となって表れてきたといえるだろう。この酸性雨によって、特にヨーロッパ中部や北アメリカ東部、中国東南部では、森林の衰退、湖沼の酸性化やそれにともなう水生生物への被害、表土の酸性化が国境を越えた深刻な問題となっている。酸性雨は森林や農作物に直接的に、または表土の酸性化などを通じて間接的に生態系へ被害を与える。川や湖の酸性化によって魚類が死滅、減少し、生態系に影響を与えるほか、文化的、歴史的な建物や石像を腐食させるなどの影響を及ぼしている。
●河川の破壊
わずか数十年前までは、日本は豊かな緑と清らかな川に彩られていた。しかし、気がついた時には、開発という名の自然破壊が始まっていた。川という川が護岸整備され、農業用水路までコンクリートで覆われてしまった。そのため、水の持つ循環機能は一部破壊され、川の周囲への水の浸透が断たれ、生態系の大きな破壊となった。そして川と共にあった特有の文化は消え、子供たちの遊び場でもあった畦道や小川も、単なる産業用の水路に

 

 

 

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