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3.解決不能な環境問題を引き起こす背景

(1)生物多様性の破壊と生態系について
●熱帯林の減少
現在地球上には、命名されているものだけでも約140万種類の野生生物が存在している。さらにこれら以外にも8,000万種もの生物が存在する可能性があるといわれている。ところが、自然破壊の影響で毎日100〜300種もの生物が絶滅しており、今後数十年の間に、地球上の生物の4分の1が絶滅する危険性があるとされている。熱帯林は、全陸地の7%にしか過ぎないにもかかわらず、炭酸ガスを吸収して地球の酸素供給量の3分の1を供給しているといわれている。また、地球上に生息する動植物約800万種のうち、75万〜250万種が、熱帯林に生息していると考えられている。熱帯林では、複雑に分化した動植物が地球上で最も豊かな生態系をつくり出しており、熱帯林を保有する一国にとってだけでなく、地球全体においてかけがえのない貴重な自然環境の一つである。
現在、アジア・アフリカ・ラテンアメリカなど至るところで熱帯林の大規模な破壊が続いている。FAO(国連食糧農業機関)の調査によると、1980年には1,910百万haであった世界の熱帯林の面積が、1990年には1,765百万haに減少している。つまり、1980年〜1990年までの間に、年平均約15.4百万haもの熱帯林が地球上から消失してしまったのである。その直接的原因としては、焼畑耕作・過放牧・過度の薪炭材採取や用材伐採などが挙げられるが、背景には、熱帯諸国における急激な人口増加や貧困などの社会的・経済的な問題がある。このような過剰な熱帯林の乱開発が続けば、今世紀末までに約25万〜80万種の動植物が絶滅してしまうだろうと危ぶまれている。熱帯林の減少は地球規模の環境に影響を及ぼすだけでなく、多くの貴重な遺伝子資源の消滅をも招くことになる。熱帯林の保護とは、単に木材としての森林を残すことではない。多くの野生生物が生息する豊かな生態系を丸ごと保護する視点がなによりも必要なのである。
●森林の破壊
我が国は国土の約70%が森林地帯であり、緑豊かな国との印象を持っている人々もいまだに多い。しかし、その森林をよく見ると、単一の種類の樹木しか生えていないことに気付く。これらは、「人工の森」なのである。戦後我が国では、生育が早く木材に適した樹種のみを大量生産するために、原生の森林を皆伐し、スギ・ヒノキといった針葉樹を植え付けた。スギ・ヒノキの大量生産の結果、木材の供給は満たされたが、その土地特有の自然は姿を消してしまった。農林水産省の統計によると、全国の森林面積は24,588,000haだが、そのうちの約40%であるlO,280,000haは造成林であることが示されている。日本の森林は、産業としての林業により、その景観は“緑"であっても、本来そこにあった自然の森は根こそぎなくなり、その森に存在していた生態系も破壊され、姿を変えてしまっているのである。

 

 

 

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