海の気象

海での二酸化炭素の観測

上橋宏(気象庁 気候・海洋気象部海洋課)
温室効果気体と地球温暖化
地球表面が太陽から受けるエネルギー(太陽放射)の大部分は大気を通り、地表面で吸収され、地表面を暖めます。地表面は、その温度に応じて赤外線を放射(地球放射)するため冷えます。この放射が大気中で影響を受けることなく宇宙空間に出て行げば計算上では地球の平均的な温度はマスナス一八℃になります。
しかし、大気中に微量に存在する二酸化炭素や水蒸気は、地球から放射される赤外線を吸収し、再び地表面付近を暖め、地球表面付近の温度は、地球全体の平均で約一五℃に保たれています。これが温室効果であり、メタン、フロン、一酸化二窒素などを含めて温室効果気体といわれており、その濃度が高くなると温室効果が強まり、地表面付近の気温を上げます。
近年関心が高まっている地球温暖化とは、人間活動によって二酸化炭素等の温室効果気体が増加し、気温を上昇させることです。一九九五年十二月の気候変動に関する政府間パネル^IPCC)総会において二一世紀末には地球全体の気温が一〜三・五℃上昇するとの見解が示されました。二酸化炭素濃度の増加はこの一番の原因であり、この増加の抑制が重要な課題になっています。
海洋での二酸化炭素観測の意義
海洋は大気中の約五十倍も二酸化炭素を含んでいます。海水中では、二酸化炭素の大部分は気体以外の炭酸イオン等に形を替えて存在していますが、海面では、大気との間で二酸化炭素の吸収や放出(交換)をしています。
この交換量を地球上の海洋全体で平均すると、海洋は二酸化炭素を吸収し、大気中の濃度の増加を抑える役割を果していると考えられています。先に述べたIPCCの報告では、石油・石炭等の化石燃料の消費や森林破壊の進行などの人間活動によって大気中に放出された二酸化炭素の約半分が大気中に蓄積し、約三〇%が海に吸収されるとしています。
しかし、二酸化炭素の海洋での吸収の様子は、海域や季節によって異なり、海洋全体での吸収量の見極りは不確定性が含まれています。また、今後海洋が二酸化炭素を吸収し続けた場合には、海洋中に溶け込む量が飽和に達するため、将来も同じ様に海に吸収されるのか明らかではありません。
このため、大気と海洋との間の二酸化炭素の交換量を明らかにすると共に海水中の蓄積量を監視する必要があります。
大気と海洋との間の二酸化炭素の交換量は、大気と海洋の二酸化炭素の濃度差から計算されます。したがって、大気と表面海水中の二酸化炭素の分布と変動の観測、海水中の二酸化炭素の蓄積量の監視や海水中での振る舞いを明らかにする観測が必要です。これらの観測の成果は将来の大気中の二酸化炭素濃度の増加、またそれに基づく地球温暖化の検討に大きな影響を与えます。
海洋気象観測船による観測船結果気象庁では海洋気象観測船「凌風丸」によって、一九九〇年から夏季、冬季の年二回、北西太平洋の東経二二七度線沿いに本州南方から赤道近海までの観測を、夏季には東経一五五度線沿いに本州東方から赤道域までの目測を実施してきました。
この結果、東経一三七度線沿いの二酸化炭素のふるまいは、北緯一〇〜三〇度(亜熱帯域)では、冬季に海洋は二酸化炭素を吸収し(吸収域)、夏季には逆に海洋が二酸化炭素を放出すること(放出域)が明らかになっています。また、赤道域では夏、冬ともおおむね弱い放出域となっています。気象庁は、西太平洋全体での二酸化炭素のふるまいを明らかにするため、新「凌風丸」が昨年就航したのを横に、これまでの東経一五五度線沿いの観測に替えて東経一六五度線沿いにまで観測海域を

 

 

 

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