ずいひつ

つれづれにA

尾瀬ヶ原へ(1)

山本繁夫
岡安孝男 画
一、 雪渓を下る私が大阪から寝台車、上越新幹線、東武鉄道のバスと乗り継いで、鳩待峠の広場に着いたのが六月六日の正午過ぎである。周辺の広場には、マイクロバスや乗用車が駐車していた。広場の東側には、鳩待山荘、土産物店、食堂、休憩所などがあって、多くの人が出入りしている。
戸倉から鳩待峠までの道路は狭く、大型の観光バスは通行できない。途中の戸倉でマイクロバスに乗り換える。鳩待峠の広場の一隅には、除雪したと思われる高さ二対ほどの雪が積んである。
休憩所で昼食をとったあと、ミズバショウでよく名を知られている尾瀬ヶ原南西側入口の鳩待峠から、山ノ鼻に向かう下りの道に入る。鳩待峠の標高が一、五九一片、山ノ鼻が一、四〇〇メートルで下りの道になっている。
ミズバショウを探勝してきた人たちが、峠に待っているバスに乗るために登ってくる。軽装で、履いているのはスニーカーのようなものが多く、滑りながら苦労して登ってくる。
今年は例年に比べて雪が多く、六月の上旬になっても登山道になっている木道の多くは雪に埋まっている。いくつも列をつくって次々と登ってくるので、下りのこちらはいつも待たされることが多い。

 

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尾瀬周辺は、今年は多い所で六折近い豪雪があったといわれ、雪解けが遅いといわれている。ゴールデンウイークの後半に、ラジオで報じられた初夏の使いという放送の中で、尾瀬沼近くの長蔵小屋の代表者の平野さんが、小屋の近くにはまだ二.八メートルほどの積雪があると言っていた。
また六月三日から五日間にわたって、NHKテレビで放映された「ひるどき日本列島」の中で、尾瀬の何個所がで周辺の実況を伝えていた。雪渓が多く木道もかなり雪で覆われていたので、それなりの覚悟はしてきたのであるが、滑りやすく歩きにくい現実に直面して、想像以上の苦労をした。
私が、山ノ鼻に向かう途中に行き会った人々は、旅行社の募集に応じて日光、鬼怒川方面の温泉を回ったあと、鳩待峠に来て四時間の自由時間があったので、ミズバショウを見ようと思って歩き始めたという。花のシーズンには少し早く、散策に都合のよい木道もまだ雪の下である。
登ってくる人たちの中には、スニーカーにわら縄を巻いた人もいる。雪道の狭いところでは、次々と登ってくるので時間がかかった。
「ミズショウは見られましたか」
「ほんの少しでした」
残念そうな返事であった。
滑りやすい雪の中を慎重に歩いた。雪が鮮けて木道が現れている所があった。私は登山靴にアイゼンをつけていないので滑りやすかった。登ってくる人も滑ったり、転んだりしながら苦労している。道の両側のダケカンバ(岳樺)には新緑の茅ぶきが見える。

 

 

 

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