つれづれに@

椰子の実

山本繁夫
岡安孝男 画
私の部屋の一隅に椰子の実がある。南の島の浜辺を歩いている時に何となく拾ったもので、当時は、こんなに長く私の手元に置いておくようになるとは思ってもみなかった。
十数年ほど前の初秋のことである。そのころ乗り組んでいた延洋丸が、日本の各港で積んだ貨物をミクロネシアの各港で揚げる航海があった。
その航海の最終港である東カロリン諸島のコスラエ港出港後、南下してパプアニューギニアのマヌス島のワーリ湾で、南洋材を積むことになった。
九月七日朝、ニューブリテン島のラバウル港に入港して、官憲による入港手続、荷主のS社に積地の状況を聞いたり、食料の積込みなどを終わり、税関職員一人、木材積込作業員八人、コントラクター一人を乗せて、同日夕刻ラバウル港を出た。
順風・顧潮に恵まれて、予定より早くワーリ湾入口にあるアンドラ島の沖に達したが、水深が深く錨泊できないので、九月八日午後十時三十分から漂泊を開始した。
翌九月九日午前五時三十分から航行を開始し、狭い島と島の間や、リーフのすぐ近くを通って、椰子林の繁る岸辺に沿いながら、錨地の目標になっているブイの近くに錨泊したのが午前七時三十分であった。

 

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木材の積荷役は五日ほどかかる予定とのことである。木材は海岸近くにある貯木場で筏を組んで、本船の舷側まで引き船で引いてきて船種み作業が始まった。
停泊している間に、引き船が貯木場へ帰るのに便乗して何回か上陸した。貯木場から十分ほど歩いたところに、椰子の木がまばらに見える小さな島がある。
その近くに椰子の葉で屋根やまわりを覆った民家の何軒かが見える。その内の一軒に本船に積んでいる木材の荷主のS社のH氏や、本船にラバウルから乗ってきたオーストラリア人のコントラクターが泊まっている。
この家の主人は仕事に出ていて見えなかったが、奥から出てきた中年の婦人が小さな動物を抱いていた。私の知っている小動物の名を思い浮かべたが、ちょっと見当がつかなかった。名を聞くとカプリといった。
女の人が家の中に入っていったかと思うと洗濯物を持ってきて、家の前の流れで洗いはじめた。海辺の砂浜を歩いていると、蟹が忙しく動いていた。ホンダワラに似ている茶色の海藻が打ち上げられ、近くにハマユウの白い花が咲いていた。ハマヒルガオのような淡紅色の花もあった。
浜辺に流れ着いているものは、木の枝、流木、椰子の実などの自然のものが多い。日本の海岸などによく見られるゴミの山ということはなかった。
貯木場のある海岸から十五分ほど歩いたところに、滝があるというので向かった。滝の高さは十二炉ほどで、幅は狭く規模は小さかった。日本で水量の豊富な滝を多く見てきた目には、水勢が弱々しい。山は低く水の少ないこの辺りは、今は乾季でもあ

 

 

 

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