海の気象

台風解析と海上警報

木場博之
(気象庁予報部予報課予報官)
一、はじめに
気象庁では、船舶の航行の安全に寄与するために、海上の最大風速を基準とした海上警報を発表しています。中でも台風に伴う警報については、その重要性から、気象庁船舶気象無線通報(JMC)とは別に「台風速報」として、観測時刻から七十分後までにセイフティネットを介して発表しています。これらの詳細については、本誌第四四六号(一九九六年三月一に述べられていますので参照してください。
台風について、中心位置、中心気圧、中心付近の十分間平均最大風速(以下最大風速と略す)、暴風域(五十ノット半径)、強風域(三十ノツト半径)および千ヘクトパスカル半径などを把握するための作業を台風解析と呼んでいます。
ここでは、台風解析のうち、中心位置と中心気圧について、船舶から通報される「海上気象実況通報」(以下船舶実況と略す)を用いた解析手法と気象衛星の雲画像を用いた解析手法の概要を紹介します。

☆<表1>熱帯低気圧の強さ(最大風速)と海上情報)

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二、台風の白さと海上警報
熱帯域で発生する低気圧を総称して熱帯低気圧と呼びます。熱帯低気圧の強さは、中心付近の最大風速で定義されています。表一に示したように、最大風速が三十四ノット以上の熱帯低気圧を台風と呼び、同三十四ノット未満の熱帯低気圧は「弱い熱帯低気圧」として、台風と区別しています。また熱帯低気圧に伴う海上警報は最大風速の強さによって階級分けされています。
ただし、二十四時間以内に上位の階級に達すると予想される場合は、その上位の階級の警報となります。すなわち弱い熱帯低気圧でも、二十四時間以内に最大風速が三十四ノットになると予想される場合は「強風警報」として発表されることになります。
三、船舶実況等による台風解析
台風の中心位置や中心気圧は、基本的には、船舶実況等を天気図上にプロットし等圧線を解析することによって決定します。台風域内の気圧は、一般的には、中心へ向かって対数関数的に低くなっています。このことを利用し、台風の周囲に実況が在る場合は図1のような解析を行います。
図1aは、台風が沖縄近海にある時の気象官署の実況をプロットしたものです。解析の手順としては、まず、風向・風速や気圧分布等から×印で示す位置を台風中心と仮定します。次に、各観測点の気圧と×印までの距離の関係を片対数グラフに、気圧を対数目盛としてプロットします。このようにして得られたのが図1bです。同図では各観測点がほぼ直線上に並んでいます。このことは、台風中心と仮定した位置が正しかったことを示しています。実際の解析作業では、このように気圧と距難の関係が直線で近似されるような位置を検出することになります。また中心気圧は、このようにして得られた直線を、中心付近まで伸ばした時の気圧として推定することができます。
一方、台風の強さを表す最大風速は「気圧傾度が大きくなると風速が強くなる」という関係を利用して求めます。
台風の気圧傾度は、中心付近ほど大きく、また中心気圧が低いほ

 

 

 

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