「海の安全」シンポジウム記念講演

木切れの代わりに六つの命
俳優 森繁久彌

 

マリアナ台風で遭難木切れにつかまって九死に一生を得た戸田の少年漁船員は大切な木切れを探しているうちに六人の命を救う。それ以来少年は神の存在を信じるようになる。海をこよなく愛する講演者がこの青年に見たものは一体何だったのだろうか(記念講演から編集係で抜粋)

 

はじめに
私も「海の日」に大賛成した男です。
四方八方を海に囲まれた日本で「海の日」がないということは、おかしいですね。やっと国民の祝日「海の日」ができて、何よりでございます。
一つしかない海を大切に
フランスのドクター・クッソウという人は、自分の船で世界の海を回っております。そのクッソウが「海は死につつある」と言っております。海自身が寿命がきたので死につつあるというのでしょうか。海が死んでは困るんです。
ともかく海はごみ捨て場だと思って、何でも捨てたのですね。海に捨てなくても川に捨てますと、川から流れ出てそれが全部海へ入ります。海は一つしかないのですから、海を殺さないためにも皆様のお力を頂きたいのです。
イタリアのジャック・マイヨールという人は、素潜りの世界記録保持者で、百五材も潜るのです。百五メートルまで潜るのに七分間かかるといいます。七分間も息ができないのですが、その人は「人間は、海から生まれてきたのだ。元は海にいたのだ。だから俺にもどこか海の機能が着いているのだろう」と言っています。
ジャック・マイヨールは、ときどき九州にきたそうですが「日本の海はきたない。こんな海はだめだ」と言いました。
私は海が好きで、日本一周を計画しました。昔の人は日本海から行ったのだから、私は太平洋から行こうということにしました。クルーザーで東京を出まして、昔の八幡船と違って太平洋を北へ上がり、途中各地に寄港しながら函館へ入りました。日本一周に三十一日かかりましたが、恐らくこんなことをしたのは私だけでしょう。
今日お話したいのは、海を大事にしていただきたいというのはもちろんですが、海について勉強してもらいたいということです。
昔の漁師は、全部歌で教えていたのですね。
「富士が見えたら乞食だ。夕方には帰る」
つまり夕方になると乞食は貰いが大きくなる。富士が見えたら風が強くなるので、夕方には帰るというのです。
今の若い人も、せっかく海へ出るのですから、海洋学、気象学、海図などの海の科学を身につけてほしいと思います。
戸田で出会った青年
さて、今日は一青年の話です。

 

 

 

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