海の気象

海霧の話

和田章義
(気象庁海上気象部 海上気象課)
一、はじめに
台風や温帯低気圧の発達に伴う荒天が原因となり、海難が発生するケースは数多く見受けられます。
しかし、海難の原因となっている気象現象はこれだけではありません。
「海霧」による視程悪化のため、船舶が座礁したり、衝突する事故がしばしば発生します。
海霧の情報については気象庁では、気象無線模写通報(JMH)における地上実況天気図(記号:ASAS)や日本語ナブテックス気象情報等で海上濃霧警報を船舶に伝えています。しかし、沿岸域、特に港湾においては、その海域に特有の海霧が発生する場合もあり、その地域の気象について精通していないと、予期せぬ海霧に遭遇し、船舶の運航に支障をきたす恐れがあります。
ここでは、日本付近で発生する海霧について海域特性を考慮しながら説明したいと思います。
二、霧(海霧)の種類まず初めに、霧とはどのような現象かを説明します。霧とは「ごく小さな水滴が大気中に浮かび、漂っている現象」のことを言います。「水滴が浮遊している現象」としては、他に「もや」がありますが、「もや」が水平視程一キロメートル以上一〇キロメートル未満であるのに対して、霧は水平視程が一キロメートル未満のことをいいます。
この海霧は、大気中の水蒸気が飽和して水滴になる過程において多くの種類に分けることができます。まず「移流霧」と呼ばれる霧は、暖かく湿った空気が冷たい海面上に流れてきたときに空気が冷やされることにより発生します。
暖流と寒流が接しているところで発生しやすいため、日本付近では根室沖、釧路沖、三陸沖などでよく発生します。この「移流霧」は形成過程において暖かい空気と冷たい海面付近の空気がよく混合しなければならないため、風がやや強いこと(風速四〜五メートル/秒)が必要な条件となっています。
「移流霧」とは違って、冷たく比較的湿った空気が暖かい海面上に流れてきて、海面から水蒸気の補給を受けて発生する霧があります。この義は「蒸気霧」と呼ばれ、例えば冬季の釧路の海岸付近では夜間に放射冷却によって冷えた陸地の空気が暖かい海面上へ流れ出すことにより発生します。
「蒸気奏」は、水温と気温の差が八度以上になったとき発生するといわれ、上空に逆転層があるときは濃い霧になります。このように、水面上の冷たく安定な空気塊が、暖かい水面からの急激な蒸発によって水蒸気の補給を受けて、飽和してできる霧を「蒸発霧」と呼び「蒸気霧」は「蒸発霧」に含まれます。
「前線霧」(雨蒸発霧・混合霧とも呼ばれます)は、いわゆる「雨霧」で、これは雨滴が降下中に蒸発して空気を飽和させ霧を形成するものといわれていますが、まだ解明されていない点が多くあります。瀬戸内海で梅雨の時期に多く発生することが知られています。
このほかに「放射霧」(放射冷却霧)といって、地表面に接する空気層が放射冷却により冷やされて発生した陸上の奏が海上へ流れ込むこともあります。
実際に見られる海霧は、例えば移流露と前線霧が一緒になって生じるなど、その時々の大気、海面の条件によって、さまざまな形で出現します。
三、日本近海の霧
海上で発生する霧については、気象衛生等の観測が行われるようになり、船舶気象観測通報に気象衛生からの観測が加わり、かつてに比べてより多くの情報が得られるようになりました。
しかし、すべての海霧を捕捉しているわけではないことから、濃霧発生状況を知る目安として、海上濃霧警報を参照してみることとします。ここでは、気象庁がJMHで放送している地上実況天気図

 

 

 

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