ずいひつ

私と船

初めての一等航海士
大須賀祥浩
岡安孝男画
陸上勤務が終わった私は、カリフォルニア航路の近代化コンテナ船“まきなっくぶりっじ”に乗船することになった。一等航海士として初めての乗船であり、身が引き締まる思いだった。もっとも、それまで私は十回近くもコンテナ船に乗船していたし、近代化船の経験も十分だった。おまけに、航路も通い慣れたカリフォルニアとあって、大きな不安はなかった。
「本船は近代化P船ですから、人のやりくりが結構たいへんですよ」
前任の一等航海士が、引き継ぎの際に、何度もそう口にした。
近代化P船とは“パイオニアシップ”の意味で、乗組員を十一人にまで減らした近代化船のことである。乗組員は運航要員として位置付けられており、整備業務は、陸上からの支援でまかなう、というのが基本的な考え方だった。
しかし、船は動いているものだから、航海中に処理しなければならない作業は、次から次へと出てくる。それに、外地停泊中には陸上支援は受けられないため、荷役当直と機関整備のすべてを、少ない本船乗組員でこなさなければならないのだ。“人のやりくりが結構たいへん”というのは、まさにそういう意味である。

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このような状況をカバーするため、近代化船の乗組員は、基本的に甲板と機関の両方の資格を取得している。例えば私は、航海士と機関士の資格を持っており、どちらの仕事もできることになっているのだ。しかし、両方の資格を持っていても、体が二つある訳ではない。絶対的なマンパワーの不足が、近代化P船のアキレス腱だった。
「このごろ、人数の少ない船ばかりで、商売あがったりだわ」
ロングビーチでの停泊中、土産物を売りにきた日本人女性が、乗組員名簿を見てホヤいていた。以前なら、乗組員名簿にはズラリと名前が並んでいたのだが、今ではたったの十一人……。おまけに、日本人が五人しか乗っていない混乗船も増えたため、“沖売り”の商売は売り上げがバッタリと落ち込んでいるのだという。
もっとも、人数が少ないだけに、外地停泊中の乗組員は、荷役当直や整備作業に追われて忙しい。そのため、上陸する暇はなかなか取れないので、土産物はどうしても“沖売り”に頼ることが多くなる。そのおかげで売り上げの減少分は、多少なりともカバーできているはずだった。
一方、船に食料を持ってくる業者(“船食”もしくは“八百屋”と呼ばれている)は、少しばかり立場が違うようだった。
「人数の少ない近代化船よりは混乗船のほうがありがたいですよ。あちらは二十人以上も乗っていますから、品物をたくさんさばけますからね」
おまけに、円高の影響もあって外地購入が増えているため“船食”にしてみれば、売り上げの減少は少なかった。
***
さて、一等航海士の仕事だが、貨物管理

 

 

 

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