気になる船名あれこれR

安田榮治
(青森海運支局船舶検査長)
〔鳥船名〕
片桐大自著「聯合艦隊軍艦銘銘伝−全八百六十隻の栄光と悲劇」(光人社)を読むと、明治末期の海軍では水雷艇に鳥の名を命名していた。それでは、いまの海上自衛隊ではどうか。同書から海上自衛隊の「自衛艦番号・艦名付与基準一覧表」を引用してみると、
護衛艦天象地象、山岳名、地方名、河川名
潜水艦 大型は「潮」水中動物名、小型は「潜水艦何号」番号
掃海艦 列島・諸島名
掃海艇 三字で「島」のつかない島名、四字で「島」のつく島名
掃海母艦 瀬戸名
掃海母艦 水道名
敷設艦 海峡名
駆潜艇 草木名、鳥名(トン数により二字・三字・四字)
輪送艦 半島または岬名
練習鑑 神社名
潜水艦救難艦 城名
補給艦 湖名
海洋観測艦 風光明媚の地名となっていて、海上自衛艦のなかでは、駆潜艇に鳥名が付けられていることがわかる。
因みに、このような艦種別の命名基準が決められている国は「艦船夜話」(「世界の艦船」元編集長・石渡幸二著)によれば、いまでは我が国だけらしい。
第二次世界大戦前はアメリカも戦艦に州名、巡洋艦に都市名、駆逐艦に海軍に関係のあった人名、潜水艦に海棲動物名という命名方式をとっていたが、戦後は暖昧になってしまったそうだ。
さて、自衛艦では駆潜艇に名付けられる鳥名だが「日本船名録」を眺めても、鳥名から採ったと思われる船名が数多く見受けられるので紹介しよう。
なお、鳥についての解説は、主に日本語大辞典・大辞林・広辞苑などに拠った。
*いそしぎ(磯鷸)全長二十センチほどの小型の鷸。背は灰褐色、腹は白色。尾を上下に振りながら歩く。海岸の干潟にすむこの鳥から名付けられたのは運輸省のいそしぎ(九六総トン)昭和五十六年進水。
*うとう(善知鳥)アイヌ語で突起の意。チドリ目ウミスズメ科の海鳥で大きさは鳩くらい。頭から背面にかけて黒褐色。繁殖期には上嘴の基部に角状の小突起が生じ、砂地に穴を掘って産卵する。北海道・本州北部に分布する。青森県の漁業取締船うとう(四七総トン)や青森港管理事務所のタグボートうとう丸(一九六総トン・昨年二月進水)、八戸の漁船うとう丸など三隻が同じ県にある。
タグボートうとう丸は平成七年版船名録に掲載されているうとう丸(一八○総トン)の代船だが、古い方は売却されるまで同じ船名が二隻だと具合が悪かったのか「旧うとう丸」という名に変更されたという。現在は第8うみだか丸に替わってそのまま青森港を走っている。
さて、なぜ青森はうとうに縁があるのかというと、その昔青森市は善知鳥村と呼ばれていたほど善知鳥が多かったからだ。「陸奥(みちのく)の外の浜なる呼子鳥、鳴くなる声は善知鳥安方」という謡にも登場した。親鳥が「うとう」と呼べば子が「やすかた」と答えるという伝説の鳥もいたという。かの世阿弥作の能「善知鳥」も有名である。
*おおとり(大鳥・鳳・鴻・鵬)
ツル・ワシ・コウノトリなどは大鳥。中国の想像上の大きな鳥で翼が三千里もあって、一度に九万里も飛ぶというのが鵬。鴻は白鳥などを表す。鳳は聖人が世にでたときに現れるめでたい想像上の鳥で、鳳は雄、凰は雌をさす。
東京の若築建設は、起重機船五隻におおとり丸(第五、七、八、九、十)を名付けている。
島根県教育庁の漁業実習船は鵬丸(一二四総トン)、新和海運の鉱石撤積み兼用船が鳳丸(七五、九〇万総トン)。日東タグ(神戸)の曳船は慶鳳丸、祥鳳丸、明鳳丸、紀鳳丸、聖鳳丸、旭鳳丸、雄鳳丸、英鳳丸、瑞鳳丸という。
*おろろん鳥 海鳥の別名、オロロン、ウルルルーという鳴き声に

 

 

 

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