つれづれに

 

・クロム鉱を積む

・海辺のホタル

 

山本繁夫
岡安孝男画
クロム鉱を積む
私の乗り組んでいたセシールデナマルカ号は、岡山県の水島港で積んだ鋼材約四千五百トンを香港で揚げ有したあと、七月二十四日の朝出港して、クロム鉱石を積むために、フィリピンのデナガット島に行くことになった。
四昼夜ほど航行して二十八日の朝スリガオ港に到着した。入港手続きを終わり、同港を出港したあと、四時間ほど航行してデナガット島の北西部にあるロレトウ泊地に着いた。翌二十九日朝、小型鉱石運搬船のセナド号(約七百トン積載可能)が入港した。
貯鉱場の近くの桟橋で八時間ほどかかって積み終わると、離岸して桟橋から約千“離れた泊地に停泊している本船に接舷して、本船のデリック(揚貨桿)を使用して積み荷役を開始した。セナド号が桟橋と本船の間を往復しながらの輸送作業である。
本船が停泊して日が経つにつれて、朝早くから船の周りに手漕ぎやエンジンをつけたカヌーがやってくる。木をくりぬいて転覆防止のために、横木をつけたカヌーをサーヤンといっており、エンジンのあるものをポンプボートといっている。
積み荷役が始まってからポンプボートで上陸して、貯鉱場や桟橋付近の状況を見に行く。セナド号は岸辺の桟橋に対して直角に着けており、船尾錨のワイヤが張っているので、船体がとびだした格好である。
セナド号の着いている所から少し離れた桟橋に、回りのものより大きく見えるポンプボートが着いている。かなりの積載能力があり、本船が購入した約二十日分の食料品も、このボートでスリガオ港から一日がかりで運んでもらったものである。
桟橋の近くの休憩舎で休んでいると、三人連れの中年の男が入ってきて、座っている私に話しかけてきた。本船に積んでいるクロム鉱の荷主関係の人たちである。
このあたりに見える民家は椰子の葉で覆ってあり、周りの風景によく調和している。海岸の椰子林の砂浜に上げられているカヌー、集落の中を流れている川に架かった小さな橋、海岸近くの海の中に見えるいくつかの漁棚などが、南の島独特の雰囲気を議しだしている。貯鉱場の近くでは忙しそうにショベルカーで黒いクロム鉱を船に積んでいる。

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海辺のホタル
フィリピンのデナガット島のロレトウ泊地に到着後、三日目の夜にホタルを見ようと思って、船外機の付いたカヌーで上陸した。
午後七時ごろ、岸辺のカヌーの船溜りに着いた時には暗かった。付近には街灯もなく、人家の灯りは、電灯よりもランプの灯りが多かった。カヌーを降りて百メートルほど行くと、家々の間にある街路樹に多くのホタルが群がっていた。樹の名は分からないが、小さい丸い葉の回りに数十匹のホタルがゆるやかに動いている。クリスマスツリーの

 

 

 

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