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おわりに

 

この報告書を読み終えて、スウェーデンの現実は日本のそれとあまりにも遠く離れたところにあると思われた方も多いと思う。また、出生率を上げるためにすぐ取り入れられるようなノウハウが少ないと思われた行政マンも多いことと思う。
私自身が、この報告書を書き終わって思ったことは、保育所を拡張し、児童手当金の額を増やすなどの施策だけでは、出生率はあがらないということである。
スウェーデン社会を考察するときに見えてくるのは、すべての人が同等の価値を有するという社会の価値観に基づく一人の人間の発達保障であり、社会的、経済的、精神的自立である。その、重要な前提として位置付けられるのが労働ならびに家族生活である。
人々にとって家族が、あるいは家族形成を行なうことがどういう意味を持つのか、そして社会が家族をどうとらえるのか。スウェーデンは、経済的に依存しない、情緒的な絆としての家族をつくり上げてきたといえるであろう。税金の還元は、家族が家族として十分機能するように、家庭経済が邁迫するときに集中的になされることは本文においても述べてきた。しかし、生活の安全の最大責任が公共にあることは、家族形成に対する、さらに具体的にいえば子どもの扶養と養育に対する親の経済的、精神的責任をすべて肩代わりするわけではない。それどころか、子どもに対する親の責任を極めて明確に位置付け、社会がそれに対して援助するということである。保育所が公共責任によって完備しているからといって、子育ては保育所まかせで、母親がキャリア・ウーマンとして専念するかというとそうではない。母親も父親もしっかり子育てをして、良い親子関係をつくることが重要だといっている。良い子育てをするには、親自身が一人の人間として発展し、よりよい人生を生きることが大切なのである。だから、労働が必要なのであり、子育てと労働生活の両立が重要なのである。また、働くことは子どもに対する扶養責任をはたすことの前提をなすものでもある。幼児をもつ親の短縮労働とか、一人親の子どもの保育所入所優先とか、児童介護有給休暇とか、多様な内容によって両立をサポートするシステムがつくられている。しかし、である。しっかり子育てができるように、育児有給休暇や就労形態に弾力性(残業は必要でないかぎりされないし、勤務時間の選択や、パートタイム労働の労働・社会保障条件が充実している)をもたせる施策によって、0歳児保育や深夜保育はほとんどみられない。生まれた以上子どもの発達する権利と、健全な発達環境の保障が重要だと考えるからである。大人が離婚しても、自動的に両方の親に委ねられる親権制度や養育費の義務づけならびに養育費立て替え制度などによって、親子関係がゆるぎなく継続され、育てられていくことも見落としてはならない重要なことである。そのためのサポートを社会はするが、家族の役割と責任をとりあげるものでは決してない。多子出産の奨励を目的にしてこなかったスウェーデンの家族政策が他の国と異なるのは、このへんにある。
したがって、日本の家族からは想像もしがたいほど個人化された家族ではあるが、家族としての共同の機能をスウェーデンの家族がきちんと持ち、家族存立の位置付けを明確にしていることが指摘されるのである。少なくとも、スウェーデンの家族は家族とは何たるもので、どこ

 

 

 

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