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カの母親の出産年齢は極端に低く、十代の出産率はスウェーデンに比べて5倍も高い。労働による扶養の可能性が年齢とともに高くなることを考えると、十代の妊娠は公的扶助の依存率を高くするという点から大きな社会問題としてみなされる。また、子どもが一人親で育てられる可能性や両親の離婚リスクも高いとともに、高い教育レベルや経済的自立を要求される今日の社会では、若くして子どもをつくることは生活困難が予期される選択であるといえよう。
両国におけるもうひとつの違いは、スウェーデンでは女性が就労するしないにかかわらず出生率は同じであるのに対して、アメリカでは教育レベルの高い就労女性の出生率が著しく低いことである。
スウェーデン女性は出産を、第6章で述べたように、30歳をこえるまで延期することである。つまり、出産年齢の高齢化が指摘される。今までのところ、出産年齢の高齢化にもかかわらずさらに継続して出産することにより、平均2人の子どもをもうけている。
これらの違いは、子どもの経済水準を大きく左右することになる。つまり、子どもの多くが若く、教育レベルの低い、就労しない(できない)母親のもとに生まれることは、明らかに貧困家庭に生まれることを意味するからである。また、このことは家族政策が貧困家庭を対象にする選別的な性格をもつか、すべての人を対象にする普遍的な性格を持つかということによっても大きくかかわってくる。アメリカの家族政策は、最も貧しい有子家庭に向けられるものであり、とくに一人(片)親を対象にするものである。
スウェーデンの家族政策は、すべての子どもを対象とする児童手当金や公的財源助成による公共保育など普遍的な性格をもち、(両)親保険は所得比例給付をとる。家族政策の総合的な意図は、教育を終えしかも労働市場に足場をきちんと確保するまで、つまり十分な生活水準を保障する(両)親保険の育児休暇手当金によって生活ができるまで、子どもを待つというところにあるといえよう。
十分な有給育児休暇制度や公共保育が欠落するため、アメリカの就労女性が子どもを生み、育てる経費は高くつく。子どもを育てる期間、家庭に滞在することを余儀なくされる、あるいはそうでなくても、経費が高くつくことが、教育レベルの高い就労女性の出生率を著しく低くしている背景と考えられる。反面、労働市場の外にいる女性にとっては、子どもをつくることはニーズ査定を必要とする公的扶助がひとつの扶養手段となる。つまり、高い保育料金と低い賃金の組合せは、就労による扶養よりも生活保護受給者としての扶養手段を選ばせるということになる。とくに、幼児をもつ母親一人の賃金で仕事と子育てを両立させ、家族を扶養することはまず難しい。これらの背景が、半永久的な生活保護受給者、つまり貧困グループをつくりあげていくということである。
スウェーデンの一人(片)親は、公共保育が優先的に保障されるかわりに、生活保護受給の前にフルタイム就労を要求される。したがって、保育事業の拡充は、就労する母親に大きな意味を持ち、また出生率を左右する重要な要因のひとつである。

 

 

 

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