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6.2 共働き家族の発展をうながしたものはなにか

1950年代の家族議論は職業婦人か専業主婦かであったが、今日のそれは共働き家族か単独稼得家族がといわれる(Dah1strom,1992)。女性就労率の増加にともなって、1960年代以降、家族構造は就業男性と専業主婦という組合せから、共働き家族あるいは一人親扶養家族に移行してきたことが指摘される。共働き家族の発展を促した要因は、単に女性の労働市場への進出によるものだけではなく、他の要因の影響も受けるものである。Bjornberg(1992)によれば、産業構造ならびに住宅事情の変化、女性労働と労働市場のフェミニズム化、福祉国家の発展、消費力の上昇、新しい家族形成パターンや離婚・離別増加による人口統計学的変化、そして個人化のプロセスなどが主な要因として指摘される。なかでも、男女間の平等な生活条件の保障、生活レベルと地域格差の縮小などの一連の社会政策の実施は、スウェーデン共働き家族を発展させた原動力であった。1960年代の経済高度成長は労働力の需要を高め、女性の労働市場進出を大幅に促したが、女性労働力の動員は男女平等のイデオロギー的議論からも圧倒的に支持を受けたといえよう。議論内容をみると、「三段階モデル」から「三領域モデル」への移行を意味するものであった。つまり、子どもが生まれるまで働き、出産とともに家庭に入り子どもの養育にしばらく専念し、そして子育ての終わった時期に再び就職するという三段階のパターンから、男も女も労働生活、家庭生活、社会生活の三領域に常時参加するべきだという考え方への移行であった。男女問わず人間発展を可能にする労働生活と家庭生活の両立の必要性と個人の選択の自由が、スウェーデン社会・家族政策の重要な原則として据えられていったといえる。
家族政策は、両方の親を対象とする有給育児休暇や公共保育事業の拡張など、幼児を持つ共働き家族の就労と家族生活両立のための条件整備に集中されていったのであった。「ミリオン・プログラム」と呼ばれた100万戸の住宅建設も、有子家庭への住宅保障を目指したものであった。
共働き家族の発展を促していったもうひとつの要因は、完全雇用政策を出発点とするスウェーデン福祉国家の労働権/就業権の保障があげられる。1971年に導入された個別課税制度は、個人の労働生活参加の重要性をさらに強化するものであった。また、共働きを必要とする客観的な条件として指摘されるのは、公共サービスの拡充は増税を必要とし、単独稼得による家族(とくに有子家庭)扶養が難しくなってきたことである。労働と生産によって福祉国家の繁栄が可能であるとし、したがって経済発展は福祉国家維持の前提として位置付けられるものである。社会民主党が推し進めてきた「労働ライン」と呼ばれる完全雇用政策の基本的意図は、「労働を通して男女ともに経済発展に貢献し、国は家族政策を通しては母親、父親の就労を援助する」という図式にある(Hinnfors,1992)。したがって、社会保険制度の原則をなすのが賃金労働であり、所得喪失保障として支払われる所得比例給付を特徴とする。障害や高齢などの理由により、自らの労働によって生活を営めないときには、

 

 

 

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