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5.男女平等政策

 

前章において指摘したように、スウェーデンにおける女性就労が増加し始めたのは1960年代からである。共働き家族が徐々に一般的な家族形態となるにつれて、就労と家族生活の両立を容易にする(特に女性に対する)援助が、社会・家族政策の重要な課題として登場してきた。就労と家族生活の両立という課題の出発点をなしたのは、労働、家族、そして社会生活の三領域における女性、男性両方の積極的参加を意味する「三領域モデル」である。すなわち、家族政策と同様に平等政策の目的は、男女両方が扶養のための就労保障とともに、親として子どもの養育責任を分担することにおかれるものである。このようにして、男女平等は家族政策の新たな目的として据えられ、また家族政策は男女平等の促進をはかる手段として位置付けられてきたといえる。

 

ノルウェーについで1980年、10年にも及ぶ国会での政治議論を経て、労働生活における男女平等の権利を保障する男女雇用機会均等法が制定された。この動きの背景となった要因のひとつには、1970年代のヨーロッパ諸国における男女平等の政治的課題があった。当時のEU加盟国は、1978年の秋までに労働生活における性差別を禁止する法の導入が要求されていたからである(SOU 1990;41)。スウェーデンにおいては、1960,1970年代の女性就業率の上昇が、女性の就業と家族生活の両立を求める民主主義のプロセスに影響を及ぼし、均等法の制定を促していったといえよう。それと同時に、均等法の制定を早めた要因として指摘されるのが、1970年代の合計特殊出生率の低下であった。
1976年秋に設置された平等委員会の法提案を基に国会可決された男女雇用機会均等法は、平等促進の重要な手段的役割を果たすものとして位置付けられ、雇用ならびに賃金設定における性差別禁止、雇用主の積極的な平等促進計画の実施、平等オンブズマンによる法の遂行監視の三つの部分から構成されるものであった(SOU 1990:41)。
1988年、平等促進5か年計画の一環として設置された専門委員会は均等法の評価と検討を行い、1991年均等法の改正をもたらした。均等法の検討結果のひとつとして委員会が確認したのは、スウェーデンの均等法は労働市場のみに適用される労働権利法であり、男女平等の促進は法適用の拡張そのものを求めるよりも、家族法や社会保険法などの他の分野との関連づけのもとに推し進められるべきだという原則であった。また、性的に中立な立場をとり、労働市場における平等に関しては男女両方の権利を擁護するという、スウェーデンの均等法の原則の重要性もあらたに確認するものであった。女性の権利擁護に焦点をあて法改正を求める意見に対して、平等委員会は労働市場の就業分野が男女別に大きく分離される傾向を打ち破り、平

 

 

 

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