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はしがき

 

この報告書は、財団法人日本船舶振興会(日本財団)の平成8年度補助事業として実施した「ローカル鉄道向け単線閉そく装置の開発」の結果をまとめたものである。
鉄道事業者は従来より事故防止に努力を重ねてきたが、単線区間の列車衝突事故等に見られるように、未だ根絶され得ない状況にある。これら事故防止には自動列車停止装置(ATS)の設備化が有効であるが、ATSを設備するには、信号設備や車両のブレーキ系統の改修等膨大な費用が必要になる。このため、輸送需要の低いローカル鉄道の事業者の中にはATSの設備化も困難な状況にあるところも存在する。
本開発事業は、これらの状況に応えるため、廉価で有効な保安システムを開発し事故防止に貢献することを目的とするものである。このため、誤出発防止機能を有した集中型の単線閉そく装置を開発することとした。誤出発防止機能は、車上の主幹制御回路の一部を変更することで停止信号時にはノッチ回路が遮断され力行を不可能とするものである。一方、集中型の単線閉そく装置は、IDプレートと称する極小ゾーンの情報処理装置を用いて車載装置と中央処理装置が交信し、列車の追跡と走行許可判断および走行許可情報の伝達を行おう新しい概念の単線閉そく装置である。
これら装置が開発されるなら、廉価で省力化可能な閉そくシステムが実現し、その誤出発防止機能とあいまって、近年の事故の要因ともなった誤出発の防止に貢献することが期待できる。
委員会では誤出発防止機能の構成及び誤出発防止機能を有したローカル鉄道向けの単線閉そく装置のシステム構成を検討した。この結果単線閉そく装置の閉そく論理としてマトリクス式連動装置の論理を発展させた制御概念が提案され具体化された。また、この単線閉そく装置が誤出発防止機能のみを有しATSを持たないという前提で、考え得る保安制御システムの形態について検討を行った。これらの検討と並行し、誤出発防止装置と単線閉そく装置の基本機能を確認する試作装置の設計・製作、現車試験及び模擬試験を実施された。
その結果、IDプレートを伝送媒体として用いた単線閉そく装置の基本概念および制御論理は、軌道回路や地上信号機によらない廉価な新しい単線閉そくシステム実現の可能性を実証するものとなった。また、本単線閉そくの基本概念をベースに、線区のニーズに応じた形態があり得ることが示され、同時にそのようなシステムを実用レベルまでに高めるための要件についても明らかにされた。一方、誤出発防止機能は本単線閉そく装置の保安を確保する重要な要素として利用できることが検証された。さらに、本誤出発防止機能は単独の装置としても導入可能であり、現行ATSの誤出発防止機能向上にも資する可能性があることが確認され、今後の実用化に明るい見通しが得られた。

 

 

 

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