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山崎総船頭は殿様の御用関船の管理や、参勤交代どきの船団操船を指揮する藩重臣の位置にあった。山崎船頭の下には船倉役人などがいた。小船頭衆は山崎家に直轄していた。日常は鰹釣り漁業、あるいは廻船に従事した。明治の世になっても木材などの積み出しは旺盛で、旧来の姿をそのまま民間活力で支えていたが、西南役で西郷軍が屯し、官軍が油津から上陸し、小競り合いもあった。西郷札があふれ、飫肥の経済は混乱する。幕末の油津港から積み出す取扱物産のうち、弁甲材など木材が全体の36%を占め、金額にして2万9千両であった。慶応3年ごろ、飫肥の橋口善吉氏が長崎のオランダ人所有の汽船2隻を借りて油津港−大阪間に定期航路を開いたが、短期問で中止した。時期尚早で営業として成り立たなかった。蒸気船が油津に就航した始まりである。明治11年、広島県の人が西洋型帆船を就航させ、大和型帆船の地元船とともに荷船として活躍した。西南役後、大阪−鹿児島の航路が開かれ、明治15年ごろ油津寄港がはじまった。
大分県の恵留杜が商船会社代理店を開いたのをはじめ、明治22年には北郷の田代宗七氏が大阪商船荷客扱店を油津に開いたが、翌23年に東海道線が開通して、海路はさびれた。また、明治42年、油津の資産家で京屋酒造の渡辺与七氏が大阪商船代理店を開き、荷を入れる大倉庫や洋館の事務所を開設した。阪神方面へ大阪商船を利用する県外客も多く、油津に寄る船を待った。堀川沿いに旅館が生まれた。
江戸末期の海運をそっくり受け継いで油津港海友会が生まれた。明治20年のことで、西南役から10年を経た海運状況がうかがえる。昭和5年まで運営されたもようで、油津港を基地にする材積貨物帆船の船主で組織しており、河宗商店が8艘、川越商店3艘、服部合資会社など服部関係が5艘などと1,600肩積の80から100艘が廻船した。このほか油津港には200を超える大小の荷船が年間に出入りしていた。弁甲材の好調な出荷が思われる。この賑わいにともなって、かつて広重が描いた名所図会の一幅にみえる大伏鼻の遊女屋と同じ地に料亭がひしめき、港東側に不夜城を築いた。堀川運河を流れる弁甲筏の量も増え、堀川のにぎわいは油津の振興を呼んだ。港の活発な動向は地域経済を豊かにする。入り船は消費活動に波及効果を生む。堀川運河と弁甲材、港と荷船は地域に計り知れないほどの利をもたらす。
油津港には漁業史にも豊かなものがある。油津を基地に穴貫漁場と灘江漁場(鵜戸沖)大島漁場がある。明治33年ごろからはじまり戦後20年代は豊漁期であった。鹿児島県甑島の漁夫が油津にやってきて、ブリ網漁を行った。大正7年、漁港修築する。油津港の内防波堤が築造された。堀川口から南の港中に危礁があった。地の碆(はえ)と沖の碆だが西防波堤はこの二つの碆を基底にしたもので、付属施設を含めて2カ年度で工費約31万円かかっている。漁港の帆走の歴史は山本弥平氏の日吉丸(20トン)のかつを釣り船が電気着火の機関導入、動力化で影をひそめた。漁船の近代化は進み、焼玉エンジンからジーゼルエンジンへ改良され、船の大型化もあり漁獲量は大きく伸びた。
堀川運河の貫流が油津港発展の布石となったと同じように大正2年(1913)には、飫肥・油津間に敷設の県営軽便鉄道が、港と飫肥など内陸部との流通をさらに盛んにした。港の環境整備が進むなか、油津港は空前のマグロ豊漁期に遭遇した。当時は油津の漁撈は稚拙で、土佐の先進漁法に学ぶことも多かったようだが、特にマグロ漁法はなんとも初歩的なもので、延縄漁は今では子どもでも避ける幼稚極まりない工夫でしかなかった。それでも油津沖ではチヨロ舟(帆かけ舟)の小魚を目ざす一本釣り漁でマグロがかかりるほどの現象があり、地元船はもとより全国先進地の漁船が油津港に殺到した。大正末期から昭和3年までは150隻に満たない船で黒マグロの1本200キロという大型鮪をふくめて20数万円から30万円(一時期)の水揚げだった。その後は参加漁船は倍増し、さらに史上に例のない黒マグロの大量水揚げの音信は大阪や東京市場で広がり、昭和5年には操業船が600隻にのぼり、水揚量は爆発的に増えた。水揚数量は439キログラム、金額にして188万1千円にのぼり、黒マグロは2万4千本(167万7千円)数量で400キログラムを超えた。それから昭和15年をピークに、同17年まで豊漁のペースが続いた。太平洋戦争の開戦で油津港を埋め尽くしたマグロ船は姿を消した。

 

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写真4 クロまぐろの水揚げ風景 昭和12年頃

 

大正時代から昭和16年までの20年間、東京築地市場をはじめ全国のマグロ相場が油津市場の価格で決まるほど

 

 

 

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