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事故防止の法則と海上安全指導員

 

第四管区海上保安本部 航行安全課専門官 池田 善彦

 

1はじめに

海上における事故、すなわち海難は、古今を通じて、不可避的に、しかもかなり高い比率で発生するものであると社会通念上考えられており、そのような危険を覚悟の上で航海活動がなされています。換言すれば、航海活動は、非常に大きな危険の上に船舶、積荷、人命などの複雑な利益がからみ合った状態で、人類の生活に不可欠なものとして、存在しているということができます。また、海難は、その態様からも発生原因の面からも非常に多面的なものであり、海難を防止するための特効薬的な対策を見つけることは困難で、その取組み方にはかなり難しいものがあります。したがって、ここでは、これまで国一海上保安庁を含めた関係行政機関)が行政の面で行っている事故防止の法則と海上安全指導員の活動の重要性について考察することとしました。

2海難の発生状況

平成七年の一年間において、第四管区海上保安本部管内で発生した救助を必要とする海難に遭遇した船舶は、68隻ありました。このうち、プレジャーボート等の海難が最も多く29隻あり、全体の約43%をしめています。また、海難の原因の内訳は、見張不充分や操船不適切といった乗組者の運航上の不注意又は過失によるものが20隻、乗組員の機関取扱上の不注意又は過失によるものが3隻ある等、人為的な原因によるものが86%をしめています。

3ハインリッヒの法則

アメリカの労災保険会社の研究部長ハインリッヒ氏は、50万件以上の労働災害事例について統計的に調べてみたところ、このうち重傷は約1,700件、軽傷約49,000件に対し、危うく傷害をまぬがれたものが約五〇万件であったことが判明しました。これを比較で表すと、重傷1:軽傷:29:危険300ということになります。これが、かの有名なハインリッヒの法則(1:29:300の法則)と言われ、安全管理上の重要な指針となっています。海難に限らず災害、事故の防止にとって根本的に重要なことは、損害の有無にかかわらずその発生を未然に防止することだと思われます。
ここで、海難についてハインリッヒの法則が当てはめ得るか否か検討した場合、救助を要する重大海難が一件発生したとすると、救助を要するまでにいたらない小規模の海難が29件発生しており、さらにその陰には操船者が「ヒヤリ」「ハット」とするような海難にいたらない状態が、300件発生していると推測しても、あながち的外れとは言えないように思われます。したがって、この「ヒヤリ」「ハット」とする状態をなくすのが、事故防止につながる安全対策であるとも言えます。

4陸上の交通安全の基本(3Eの原則)

我々が日常生活をいとなむ上で不

 

 

 

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