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大震災、一相談委員の雑感

 

石 神 節 子
(泉南市)

 

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「えっ、行政相談って何ですか?」昨年震災十日後から年末までの1年間を、救援ボランティアとして何回か神戸を訪れていた折り、偶然ボランティアセンターの責任者が発した言葉である。
「相談業務」について説明をしたのは勿論のことであるが、「行政相談」についてのPR不足が、私の担当地区だけでなくここでもかと複雑な思いをした。事情はこうである。
瓦礫の下から意識不明で救出され、応急処置を受けたものの、数日後遠隔地に住む子息の所へ移住、そこで治療を続け、後、仮設住宅に入居、歩行障害を患っており、被災障害者に対する一時見舞金の受給に当たって、区役所へ申請したところ、治療経過が不明瞭であるとして取り合ってくれないとのこと。なるほど、区役所の言い分も最もなので、被災直後に受診した時の診断書、遠隔地での受診時の診断書等、経過が証明される書類を揃える必要のあることを助言し、中央区担当の行政相談委員に、直接相談できるよう労をとってあげてほしい旨を、前述の責任者にお願いした次第である(1ヵ月後、お蔭様でと見通しの明るくなったことを喜んでおられた)。
阪神・淡路大震災直後の魂も凍るような惨状や、行政の危機管理体制の欠如については既に多くの言葉が費やされており、今更あげつらう必要はないが、私の場合、行政相談委員としてボランティアに参加した訳ではないが、活動中どうしても行政相談的なものの見方をしてしまい、そのたびに、被災者と行政側との間に立つ行政相談委員の係わるべき事柄の、あまりにも多いことを痛感した。
老人を保護する意味から、市街地に近く、生活に便利な場所にある仮設住宅に老人を優先して入居させた。しかし非常事態の折から、家族を扶養する義務がありながら職まで失った労働者が、仮設住宅の抽選に何度も外れ、挙げ句の果てに、日当たりよりも交通費の高くつく地域にある仮設住宅にしか入居できない、という矛盾。避難所に取り残され、行き場のない人々の苛立ちが一層深刻になっているというのに、あちこちの仮設住宅で目につくのは、荷物だけが入居し、被災住民のいない仮設住宅。というような数々の問題を抱えながらも、土埃の舞い上がっていた被災地が、徐々にではあるが逞しく復興していく姿に安堵したことであった。
避難所や仮設住宅を訪問するたびに、震災救援ボランティアに対する数多くの感謝の言葉を頂いたが、実際多くの若者や民間ボランティアの活動が、被災者の大きな支えとなっていたことは事実で、当初おっとり刀で駆けつけた人々の善意が次第に輪となり、救援マネージメントや支援のシステム化に向けてまとまりを見せ、行政の不足を補って余りあったと思われる。
現在各地で結成されてきている民間ボランティアグループの多くが、様々に苦慮しながら活動していると聞くが、これらをどう助成し、育てていくかが、福祉社会を目指す上での重要な課題ではないだろうか。
ともあれ、被災地での多くの出会いの中から深く考えさせられる事の多い一年であった。

 

 

 

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