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アルコール問題に対する世界の予防策 ―20世紀の動向を振り返る―

 

アーチャー タング(Archer Tonue)
アルコールと嗜癖に関する国際協議会
(International Council on Alcohol and Addictions)

 

世紀末を迎えようとする現在、飲酒を原因とする諸問題に対して各国が過去90年間にとってきた様々な予防法、軽減策に関して、その動向、及び政策を振り返って見ることは、実に意義深い。
概してこの分野では、最終的な方策、判断、決定というものは存在せず、常に見解が分極化するという特徴がある。加えて、歴史家の視点で見ると、様々な試みに対するいかなる批評に関しても、事実や状況の重要性の解釈に個人的な見解が入り込んでしまうのを避けられないということを付け加えておかなければならない。
今世紀初頭には、泥酔者を減らし、飲酒による個人や社会に与える有害な影響を抑えるための対策には3つの主な流れが見られた。その一つとして、飲酒にまつわる問題の解決策は、個人がアルコール飲料の摂取を控えることにある、という概念に基づいている、この概念は当時大規模に行われた禁酒運動の基本理念となっている。禁酒運動は、個人の道徳観念に訴えて飲酒を完全にやめさせるという方針が下敷きになっていた。
今世紀初頭の第二の傾向は、飲酒にまつわる問題は酒類規制によって解決できるという強い信念に基づいている。具体的には、北欧諸国で好んで採用された国や自治体による酒類の製造、流通の独占制度が取られていた。例として、スウェーデンにおけるGotheburg制度を挙げるにとができ、この制度は民間利害が関与しない政府による酒類の管理法として知られている。スウェーデンではこの制度の補足として、酒類の配給政策として有名なBratt制度が実施された。
イギリスやオランダなど、酒類の許可制度を採用した国もある。小売店で消費者が酒類を入手できる時間等を制限する法律で、飲酒行為そのものよりも、社会秩序と公共の安全を意識したものだ。また後に、米国、フィンランド、ロシアでは酒類の全面禁止策が取られたこともある。規制による解決策は、この他にもカナダ、オーストラリア、ニュージーランドなど、各国が独自の形で応用した。税制によるものや、地域単位での選択制(地域内での酒類販売を許可するかどうかは地域の決定に任せるという制度)などが例として挙げられる。
今世紀初頭の第三の大きな流れは、アルコール問題に対する一部の医療従事者の姿勢に見ることが出来る。飲酒癖のある者は適切な治療とリハビリを受けるべきである、という認識を徹底しようという動きだ。当時すでに、アルコール症(alcoholism)を病気として、少なくとも中毒者を病人としてとらえる認識があった。ヨーロッパ大陸では禁酒運動そのものがアルコール中毒者のリハビリをも意識したものとなっており、一般大衆に節制を勧めるという基本方針に加えて、アルコール中毒患者には医学その他による治療の必要性を説いた。その一例がスイスにおけるBlue Cross運動で、ヨーロッパからアフリカ、太平洋諸国にまで広まった。
実際、スイスのフォーレル(Forel)やチェコスロバキアのスカラ(Skala)など、担当医自身も飲酒を控えるべきだと考えるアルコール症治療専門医もいた。

 

 

 

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