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アジアの高度経済成長による飼料穀物需要の急増など長期的要因が作用している。本章では中国、日本の穀物需給と農業政策に留意しながら、これら長期的要因とそれらの21世紀にかけての食糧需給に及ぼす影響を検討する。

 

2 欧米の農業政策の80年代後半からの転換

 

欧米の食糧政策は80年代後半から、それ以前の保護強化・過剰生産・ダンピング輸出政策から保護引き下げ・過剰削減・地域格差是正・環境保全政策へ転換してきた。ECは70年代にCAP(共通農業政策)の輸入課徴金、輸出補助金、国内価格支持によって生産増、農業構造改善、農業所得水準の向上を達成し、さらに80年代前半には主要農産物の域内自給を達成し、穀物では70年代まで年3000万トンほどの純輸入を行っていたのを84年に純輸出地域となり、それ以後CAPの下補助金付きの輸出を増大させて、80年代末からは年2000万トン以上輸出するようになった。ECの農産物過剰在庫は、バターが86年に170万トン、脱脂粉乳は84年に62万トン、牛肉は同年61万トンと膨大な量になった。価格支持と過剰農産物の輸出補助への財政負担は限界に達していた。CAPの価格支持と輸出補助を示す農業指導補償基金(EAGGF)は79−81年を基準として85年に名目額で1.8倍、実質額で1.2倍に増加した。1)ECの食糧政策は転換は82年の生産調整と支持価格引き下げから始まり徐々に強化され、85年の『共通農業政策の展望』(グリーン・ぺーパー)によって、CAPの生産性向上、農民の生活安定、供給安定、適正価格の目的を確保しつつ、環境維持的・地域格差削減的方向づけがなされた。87年の包括的財政改革案(ドロール・パケッジ)もこの方向を継承し、88年2月の欧州理事会で合意され、同年に始まる中期財政計画とともに財政負担を削減するスタビライザーと生産削減と環境保全のためのセット・アサイドが導入された。そして最終的には、支持価格の大幅引き下げ・生産調整・直接補助による中小規模経営の保護(若年農業経営者への特別援助措置)・粗放化による環境保全(条件不利地域、環境保全地域に対する特別措置)などを内容とする92年の大農政改革となり、さらに課徴金の関税化、ミニマム・アクセス輸入、輸出補助金の削減、国内保護の切り下げ

 

 

 

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