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第6章 食糧: 2020年の展望と日本

 

京都大学大学院能楽研究科
生物資源経済学専攻教授
辻井博

 

1 96年穀物危機の長期的要因

 

世界の穀物在庫率(消費量に対する在庫量の割合)が87年以来傾向的に減少し、穀物価格が高騰した。USDAの96年8月発表のデータでは図1に示されるように穀物合計の在庫率は95/96作物年末13.7%、内小麦は18.9%、コメは13.0%、粗粒穀物(コメ、小麦以外のとうもろこしなど主として飼料用穀物)は10.5%と軒並みFA0の安全水準の17%ぎりぎりかそれを大幅に下回っている。これら在庫率はコメ以外は戦後最低水準になっており、74年の食糧危機の時より低く、96/97作物年末にはそれぞれ13.8%、19.3%、12.5%、10.6%と予想されて前作物年とほとんど変わらない。アメリカ農務省の世界穀物需給問題の専門家 J.A.SharplesはChoices誌の95年第4号で、この減少する世界穀物在庫は96年秋に非常な低水準になるのだが、その内72%は世界各国の流通在庫、27%は中国や旧ソ連などによる各国内の不作に備えた戦略備蓄で、これらは世界的穀物不足に対応する国際備蓄としては機能しない。戦後この国際備蓄の役割を果たしてきたアメリカ、カナダなど主要穀物輸出国の国際備蓄は1.4%ほどしかなくほぼ払底するとした。世界穀物市場は危機に瀕していた。このような状況を反映してシカゴ穀物先物価格やバンコクのコメ輸出価格は95年始め頃より上昇を続け、とうもろこしの期近価格は96年7月12日1ブッシェル5.48ドルと史上最高値を付け、小麦も5ドルほどと15年ぶりの高値になり、大豆も昨年10月から30%ほど上昇した。コメも96年9月5日100%1級のバンコクFOB価格が1トン当たり465ドルと15年ぶりの高値になった。
この穀物価格の上昇と穀物在庫率の低下は、アメリカの95作物年の粗粒穀物とコメの減収、高所得諸国の景気低迷のよる余剰投資資金の穀物先物市場への流入や狂牛病によるアメリカの牛肉価格の上昇に伴う飼料穀物価格の上昇など短期的要因も働いているが、欧米の農業政策の80年代後半から90年代前半での大転換、農業技術蓄積の枯渇や土壌・水など自然資源の制約と劣化、穀物の光合成能力制約などを反映する世界の穀物単収増加率の70年代から80年代への低下、世界の人口爆発と中国を中心とした

 

 

 

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