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5 産業高度化と労働力

 

産業構造の変化、農工転換には投資はもちろんであるが労働力の投入、現実には労働移動が大きな役割を果たしている。結果としては、産業別の就業構造の変化にあらわれる。1960年と90年の間に日本では農業の就業者のシェアは、33%から7.6%へと4分の1以下となるなどの大きな変化を示しているが、タイ、マレーシア、フィリピンなどでも同じ期間に2分の1前後へと大きな変化を示している。(第5表参照)
このような就業構造の変化の中でも、農業生産が増加をつづける限り、農業就業者の絶対的減少が生じているわけではない。80年代に入ってからも増加率は1%を下回るようになってきているが、タイを除くアセアン各国とも増加はつづいている。人口の増加、労働力人口の増加のすべてを非農部門で吸収しえていないからである。しかし、農業就業者が定着しているのではないことは見逃すことができない現実である。
農村都市間の人口移動率をみると農村から都市への移動率は、長期的には低下傾向にあるが日本では1960年の36.8%から94年の20.8%へと6割弱と低下する一方、都市から農村への逆流は、同じ期間に14.9%から22.2%へとゆるやかながらも上昇している。60年代の20%をこえる純移動で、農業分野から非農業分野への労働力供給は農工転換に寄与したが、90年代に入ると殆んど停止に近い状態となっているのがみとめられる。
これに比べると、韓国、タイなどでは、移動率の傾向は共通しているものの、農村から都市への純移動は90年代においてもつづいていることがみとめられるし、タイなどでは、その率が必ずしも低下していない。資料的には十分明らかではないが、他のアセアン諸国でも農工転換の速度からみて同様な移動状態にあるとみられるのである。
なお、ここでみた移動は、人口であるが、移動理由として韓国では仕事が47%、タイでは30%が求職・転職とされ、労働力の移動の性格を強くもつものであることは否めない。(第8表参照)

 

 

 

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