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4 世界食糧需給の楽観論と悲観論

 

1980年代までの世界の食糧需給は、アフリカなどの例外はあるが、世界的に見れば、「緑の革命」に象徴される科学技術の成果により、人口の増加を上回る食糧生産が実現されてきた。ところが、1990年代半ばになって、1995年のアメリカの穀倉地帯を襲った不作をきっかけとして、国際穀物市場は逼迫し世界の穀物在庫は史上最低を記録する事態となり、世界的な食糧の需要と供給のバランスについて多くの人が不安を抱く状況となっている。世界の人口は、今や57億を越え、30年後の2025年には85億人を越えるとの予測されているのに対して、食糧生産の基盤となる地球の環境と資源の制約が多くの人々によって予感されており、世界の食糧需給の将来を懸念させる要因となっている。
世界全体としての食料需給の展望について、国際機関、主要国の農業関係機関の見通しは、FAOの2010年見通しに示されるように世界の栄養不足人口は減少し、国際穀物価格は横ばいないし低下傾向を示すという点でおおむね楽観論であるということができる。しかし、ワールド・ウォッチ研究所のレスター・ブラウン氏は、「戦争ではなく食糧不足こそが将来の最も重大な脅威である」との警告を発してる。これを裏付けるかのように国際稲作研究所IRRIの報告では将来における米の単位当たり収量の増加が鈍化し、世界的に米が不足する可能性があることを指摘している。このように世界の食料需給の将来展望は楽観、悲観の両極端に分かれている。いったい何れが正しいのか、多くの人がその答えを求めている。
この明らかに矛盾した世界の食料需給の長期展望に関する楽観論と悲観論は、実は必ずしも両立しないものではない。楽観論は、十数年程度の将来の展望であり、悲観論は数十年の超長期の一つの可能性について警告を発したものである。現状、あるいは過去の傾向のうち、何を主要な、あるいは支配的なものとして強調するか、さらに十数年の将来を見るか、数十年の超長期の将来を見るかによって長期展望は大きく変わるのである。

 

 

 

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