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総括 人口と食糧のバランス

- 人類最後の選択 -

 

日本大学人口研究所名誉所長
黒田俊夫

 

20世紀最後の10年間に、人口の分野において注目すべき歴史的大変化がおきてきた。第1は人間という生物の生存を直接脅かす食糧問題である。第2は食糧を必要とする人間自体の増加抑制の問題である。それは1994年のカイロ会議(人口と開発に関する国連会議)において採択された女性の地位の向上と活力化を目的とする“女性のempowerment"政策である。社会、経済、健康の3つの分野における女性の地位の抜本的向上による人口問題解決の総合戦略としてとりあげられた。筆者はこのような女性対策は“女性開発”という総合的、革新的理念として捉えている。この第1と第2は車の両輪であって、バランスが維持されない限り、車は機能を失うこととなる。
第3は世界人口が2050年には100億という異常とも思われるような規模に達することが国連によって推計されており、これは1990年の約53憶の2倍にも匹敵するものであるだけに、改めて専門家のみならず、国際的にも深い関心がもたれることとなった。
地球上の人口が100億に達するといった時、誰もがまず関心をもつのは、地球は一体これだけの人間を扶養していけるのか。もっと具体的にいえばそれだけの食糧生産は可能かという問題である。専門家から早速問題が提起された。
第1はBongaarts(1994)の“増大する人口は食べていけるのか”という論文であり、第2はL.ブラウン(1994)の“Full House"という題名の書物で副題は“地球の人口択養能力の再評価”となっている。第3は Joel Cohen(1995)の“地球はどれだけの人間を扶養できるかという大著である。第4はフランスのグラッツマン(1996)の“過剰人口”である。いずれも1995年前後の最近の代表的な人口・食糧問題論である。
国連の世界人口の1992年推計は1994年に改訂され、2050年の世界人口は、100億から98億へと2億下方修正されているが、100億という大きさとはあまり変りはない。しかし、このような増加の緩和の推計に対し、IIASA(1994)113億という推計を発表している。国連推計(1994)の高位推計では119億となっており、IIASA推計はむしろこの

 

 

 

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