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■事業の内容

GMDSS救命設備は、船舶に設備された以降は、それが常に正常に作動するよう整備事業場において定期的に整備されている。
 整備されたGMDSS救命設備は、物件の1つ1つに整備報告書が作成されて検査機関に提出されると、性能に係わる立ち会い検査が省略される。そして、その整備報告書は同時に、整備責任の証として本船及び船舶所有者に、また、集中管理のために関係メーカー及び(社)日本船舶品質管理協会(以下「品管協」)にも報告されるシステムとなっていて、作成される整備報告書の総数は、膨張式救命いかだのものを含めると年間で1万数千件に達している。
 このような状況のなか、会員整備事業場では経理計算等でパソコンの導入が普遍的となりつつあり、或いは企業の近代化に向けてパソコンの導入を計画している会員もあり、将来的には会員全整備事業場にパソコンが浸透する日も間近いと予想されることから、整備報告書をパソコンによりデーターべース化して、関係者がそれぞれの立場で自在に活用したいという要望が醸成されてきた。
 コンピュータの利用にあたっては、できるだけ省力化することが肝要である。現時点の技術では多少困難なアイデアでも、近い将来には当然解決され得るものとして、ある程度夢を描きながらシステム開発を進めるとともに、将来的には膨張式救命いかだ及び内燃機関もこの整備管理システムに一元化することとして研究開発を行うこととした。
(1)<GMDSS救命設備の整備管理システムの開発に関する調査研究>
[1] GMDSS救命設備整備事業場の経営基盤の安定を計るとともに、製造物責任問題等に適切に対応するため、GMDSS救命設備の設備記録の作成及び整備状況の把握並びに顧客管理等を的確に行い得るよう、コンピュータにより一元管理するとともに、これらのデータを関係検査機関等並びに整備事業者及び製造者が活用できるようなシステム「整備管理システム」を開発して、整備能力の向上と船舶の安全性の向上に寄与することを目的とする。
[2] 事業の実施方法
 本事業は平成6年度からの2カ年計画で実施することとされており、本年度は昨年度に続く2年度(最終年度)として次のように実施する。
a.事業の実施計画
(a)GMDSS救命設備の整備管理技術の向上と船舶の安全性の向上に資するために、サービスステーションの整備データを集中管理するとともに、検査機関及び整備事業者及び関連の製造者が活用できるデータの出力及び統計資料の作成を可能とするソフトウェアーを次により開発する。
(b)開発対象電算機
イ.GMDSSサービスステーションで使用するパソコン
ロ.データを集中処理するとともに、一元管理するためのホストコンピュータ(ミニコンピュータ)
(c)システム開発項目
イ.昨年度開発に着手したGMDSSサービスステーション端末用ソフトウェアの試験及び試験結果に基づく修正
ロ.整備済証明書用ソフトウェアの作成
ハ.ホストコンピュータ用ソフトウェアの開発
ニ.整備済証明書作成用ソフトウェアの作成
ホ.端末用ソフトウェア用取扱い説明書の作成
へ.その他
(d)処理項目
イ.サービスステーションにおける整備記録の作成、処理および保管
ロ.整備記録データの処理及び保管
ハ.処理データの所要箇所への配布
b.本年度は、2年計画の第2年度として初年度の調査研究事項の再確認を行うとともに、次を重点として調査及び開発を行うこととする。
 なお、膨張式救命いかだ用整備記録についても、関連ソフト(端末用及びホスト用)を開発する。
(a)データ処理項目
(b)端末用ソフトの修整
(c)膨張式救命いかだ整備記録のための端末用ソフトの作成
(d)基本ソフトウェアの体系
(e)データ処理を行うためのホストコンピュータ用ソフトウェアの開発
(f)端末用操作手順書の作成
c.整備管理システムの概要
 開発された「整備管理システム」はGMDSS救命設備機器と膨張式救命いかだを対象に、これらの整備情報をコンピュータ処理することを目的として構築されたものである。
 「整備管理システム」は多数のコンピュータが整備情報を媒体としてオンラインの接続関係、あるいはオフラインの形式であっても恒常的な情報による接続関係を保つことによって構築される広域情報処理システムである。また、システムの主目的である整備情報の集約・管理、そして情報提供の意味において、「整備管理システム」は大規模なデータベースの機能を持つものである。このデータベース機能の側面において、情報の流れを主体としてシステムの構成を表現するならば以下のように考えられる。
(a)サブシステムとして整備事業所等において情報提供の機能を実行する「整備物件管理システム」
(b)メインシステムとして品管協において情報提供の機能を統括管理する「整備物件統括管理システム」
(c)「整備管理システム」の管理下おいてオンラインあるいはオフラインにより情報を利用する使用者
 「整備物件管理システム」は、図に示すように各事業所における整備情報のデータ入力作業を支援し、整備管理データベースを運用する品管協の「整備物件統括管理システム」に対するデータ提供を実現すると同時に自社情報の集積・整理の処理機能を持つものである。すなわち、各整備事業場は自社情報によって構築されたサブシステムを各自個別に持つ体制となっている。
 「整備物件総括管理システム」の主要な機能は、整備管理データベースの管理運用であり、全国規模に展開した多数の事業所等から提供される情報を集積し、解析・評価することである。ここで情報入力のための手段としては、通信回線によるオンライン接続と通信回線に替わる間接的な接続関係を確立するものが考えられる。オンライン接続によるシステムの構築によってもたらされる優位性は言うまでもないが、システム導入当初の経過措置として現状ではフロッピーディスクを媒体とした接続形態をシステム運用の主体とした。
d.整備物件管理システム
(a)システムの機能概要と開発環境
 「整備物件管理システム」は、サービスステーションに設置されたコンピュータに導入されて運用される「整備管理システム」のサブシステムである。このシステムが、実行する機能の概要を以下に示す。
イ.整備管理データベースに対する整備情報データの作成
ロ.P.S.C.対応のために、国際的に通用する整備証明書の作成
ハ.IMO−A.693(17)SERVICING OF INFLATABLE LIFERAFT2.16の基準に対応した報告書の作成
ニ.コンピュータ出力による公的報告書の作成
ホ.船名および顧客の管理、検査時間の照合、搭載物件の情報把握による営業活動への支援
へ.整備士の作業状況や保全整備の状況の把握による企業評価
ト.有効期限の把握による在庫資材や使用部品等の適正管理
チ.整備記録の管理によるクレーム処理の対応や整備責任の明確化
(b)データファイルの構造
 「整備物件管理システム」は、マスターファイルとトランザクションファイルに大別される2種類のデータファイルとデータベースツール、及びこれらを駆動するソフトウェア部分により構築されたものである。図に主要なデータファイルの概要を示した。
 ここで、マスターファイルとは通常一度定義されれば内容の変更が少ないデータを記録したものであり、トランザクションファイルとは整備対象機器のデータで日常的に作成、追加、変更が実施されるものである。特に、整備事業場、整備技術者、使用測定器マスターファイルは環境設定マスターファイルでもあり、最も重要なデータファイルである。また、その他のマスターファイルも日常業務の入力作業を軽減する上で重要な役割を果たすものである。すなわち、整備結果の入力作業においては常に船名、船舶番号、設備等の型式名情報が必要となることから、これらの情報を毎回入力する作業を省略するためにも、必要な情報があらかじめ記録されたデータファイルが有用となる。
(c)システムの動作概要
イ.システムの所期動作
 「整備物件管理システム」のシステムメニューマップを図1に示し、メインメニューを図2に示した。使用者は、システム起動の初期画面となるここのメインメニューより目的とする項目欄をマウス等で選択することによって作業を開始し、終了欄の選択により作業を終了する。
e.整備管理システムの将来と事業場への普及
(a)システムの将来像
 「整備管理システム」が有効に機能するためには、メインシステムである品管協の「整備物件統括管理システム」とサブシステムである各整備事業場の「整備物件管理システム」が共に機能し、さらに両者間での情報の伝達が確実に実効されなければならない。全国規模に展開する情報伝達の関係を充分に確立することの困難さは極めて大きなものであり、関係者の多大な協力を必要とするものであることは避けがたいことである。しかしながら、統一規格を持つ情報をコンピュータ処理により自在に得ることのできる状況によってもたらされる利益の大きいことも確実な事実であると考えられる。このようにシステムの構築による社会的効果は、各事業所や品管協にとって大きなものとなることが予測される。また小規模な事業所においては、導入されたコンピュータを事務処理業務などに活用することにより、OA化の促進など省力化に有効な手段となることが考えられる。
 「整備管理システム」をより有効に運営するためには、情報の伝達をできうる限り容易で高遠な型式に統一することが重要な要件であると考えられる。そのためには、オンライン化された情報伝達のネットワークを持つシステムを構築することが必要であるが、現状の「整備管理システム」で全てのサブシステムと品管協をオンラインで結ぶことは実現されていない。従って、今後の最重要課題は情報伝達のオンライン化である。オンライン化の手段としては、専用あるいは通常の通信回線を使用するものや広域ネットワークを利用する方法が考えられるが、近い将来におけるオンライン化は経済性や簡便性の面から、電話回線を用いた型式が現実的な選択であると考えられる。将来の通信回線を用いた「整備管理システム」の運用形態を図に示した。このようなシステムでは、どのような情報を誰を対象としてどのように公開するのかガイドラインを確立することが必要になることから、当初は、自社関係分以外の情報は、取り出せないこととし、状況に応じて関係者間で協議して、情報を順次公開していく必要がある。
(b)普及方法と当面の処置
 「整備管理システム」の対象となる整備事業場は、全国に広がる多数のものであり、また、事業規模も多種多様であるが、本システムのサブシステムである「整備物件管理システム」を各整備事業場が早急に導入することが、本システムをより有意義なものとするうえで、欠くことのできない事項である。
イ.説明会の実施
 本システムの調査研究に当たっては、各事業場に対して調査研究の意図するところとシステムの説明を行うとともに、数度に亙ってシステムの概要を説明した。
 また、平成7年10月には、東京において整備管理システムの説明会を行い、17社17名の参加を得た。
 できるだけ多くの事業場に、本システムを利用して貰うには、対象事業場の理解を得ることが肝要であり、出来るだけ多くの箇所で説明会を行う必要があり、また、対象事業場もGMDSS救命設備整備事業場に限らず、膨張式救命いかだ整備認定事業場も含めて考える必要がある。
ロ.パソコン導入の指導
 本システムを導入するにあたっては、パソコンに関する理解を充分に得る必要があるが、一般的にはパソコンに関することで次のような意見が多くよせられている。
・操作が難しい。したがって、専門の人を要するのでは。
・高価であり、本システムだけに使用するには無駄が多い。
 このため、本システムの普及においては、説明会での次の点について十分に認識させる必要がある。
・パソコンを導入することによる利点
・導入における経費及び維持費
・整備管理システム以外に利用する場合の概要
・整備管理システムの概要と導入することによる利点
・事業場端末用ソフトの概要
・事業場端末の操作要領
ハ.システムの維持、管理
 本システムの稼働後においては、次の事項をどう処理するかについての検討が必要であるが、このことについては、今後の品管協における検討事項と考える。
・維持、管理に関する経費
・事務局における管理体制
・インフォメーション窓口の設置
ニ.当面の処置
 本システムの普及を図るために、平成8年度は東北、近畿及び九州地区の3カ所で説明会を行うことを計画している。
■事業の成果

GMDSS救命設備の整備データを蓄積して、関係方面におけるデータの有効活用を図るために、整備記録のデータの集中的管理を可能とするためにデータベース化することとして平成6年度からの2カ年計画で調査研究を開始した。
 平成6年度は、昨年度に実施した基本的な調査及びサービスステーションにおけるデータ入力整備報告書作成のためのソフトウェア(端末用ソフト)の開発に着手し、全システム開発の端緒をつかむことができた。
 平成7年度は、前年度の成果を基に端末用ソフトのサービスステーションにおける試験運用、データ処理を行うためのホストコンピュータ用ソフトウェアの開発及び全システムの構築のための足掛かりを得ることができた。
 本事業の実施に際して、熱心に討議を頂き、また原案作成等多大な努力を惜しまなかった委員各位及びオブザーバーとして参加をいただいたメーカーに対して深甚なる感謝を捧げるとともに、本調査研究の成果が各整備事業場の理解を得て、端末用コンピュータが早急に導入され、GMDSS救命設備及び膨張式救命いかだの整備データがホストコンピュータに蓄積・管理され、関係各方面に広く、かつ、有効に活用されることによって、船舶の安全性の向上に寄与することを大いに期待するものである。





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