日本財団 図書館


■事業の内容

認定物件や型式承認物件は、安全検査の要件に適合することはもとより、需要動向や環境の変化に対応していく必要がある。本事業は、上記の観点より製品の品質改善及び性能の向上を図ることを目的とするもので、本年度においては高速船用高速ディーゼル主機関の整備等に関する調査研究(3年計画3年目)、救命設備(固形いかだ等)の経年劣化に関する調査研究(3年計画3年目)及び新型内燃機関の陸上試験方法に関する調査研究(1年計画)を実施した。
(1)高速船用高速ディーゼル主機関の整備等に関する調査研究
[1] 概 要
 近年、時間価値の増大による強い社会的要請から、航海速力が30〜40ノットに達するような高速船が増加傾向にある。
 これら高速船の主機関は、最新のハイテク技術を活用して小型、軽量、高出力、高回転化が図られ、国際的な高性能な機関ではあるが、機関各部は大きな熱的負荷や機械的負荷が加わって、従来のディーゼル機関に較べて、過酷な状況下で使用されている。
 また、航行中は近代的なメカトロ技術を活用して、操舵室に設置されている監視装置等により常時監視されながら、リモートコントロール装置により運転制御されている。
 このようなことから、高速船用高速ディーゼル主機関は、その構成部品の材質、製作技術、品質管理等をはじめ、運航中の点検維持管理や保守整備技術についても、従来型ディーゼル機関よりはるかに高度なものが要求される。
 従って、高速船用高速ディーゼル主機関については安全性の確保の見地から、従来の主機関とは異なった観点に立って検査を行う必要があると思料される。
 本事業は検査基準に見直しを行うため、高速船用高速ディーゼル主機関の保守、点検、整備システム等の調査を行い、検査基準の見直しを行うための基礎資料を3カ年で作成することを目的とし、3年度分として、次の事業を実施した。
[2] 事業の実施
 本年度は高速船用高速ディーゼル主機関について、整備状況の現地調査、運転・日常点検整備管理についての乗船調査を下記の通り実施した。
a.高速旅客船「ソレイユ」主機関整備状況現地調査
 平成7年9月14日、(株)新潟鉄工所太田工場において、徳島高速船(株)「ソレイユ」の主機関整備状況調査結果は、次のとおりであった。
(a)調査対象
主機関   (株)新潟鉄工所製 16PA4V−200VGA
3,600ps×1,475rpm/916rpm×2台
推進装置  KAMEWA ウォータージェット71S<2>
竣工年月  平成3年10月
今回の検査の種類 4年目 定期検査(継続検査)
検 査 右 舷 機 左 舷 機

総運転時間(今回)
   〃 (前回)
   〃(前々回)

13,650時間
10,456〃
 7,445〃
13,668時間
10,479〃
 7,466〃

(b)主の分解範囲(両舷機)
・シリンダーカバ(全数)
・ピストン抜き (全数)
・ライナー抜き (全数)
・主軸受    (全数)
・過給機    (全数)
・空気冷却器  (全数)
(c)主な交換部品(両舷機)
・吸気弁棒   (全数)
・排気弁棒   (全数)
・ピストンリング(全数)
・主軸受メタル (全数)
(d)主な手入れ部品
・シリンダライナ(全数)ホーニング加工
・排気弁シート (全数)当り面修正
(e)調査結果
イ.定期検査解放のため機関本体は製作工場に陸上げして整備している。
ロ.解放範囲は法検査に基づく継続検査対象以外に整備マニュアルによる部品を含んでいる。
(例)シリンダカバー(1台) 法検査対象   4cyl
整備マニュアル12cyl
ハ.燃料弁は、3カ月程度で点検を行っている。
ニ.解放後の部品交換は、整備マニュアルに基づき行われている。
(例)吸気弁棒、排気弁棒
b.「きたぐも」主機関整備状況現地調査
 平成7年11月27日、(株)池貝川崎工場において実施した海上保安庁巡視艇「きたぐも」の主機関の整備状況の調査結果は、次の通りであった。
(a)調査対象
主機関    池貝 16V652
2,450ps×1,450rpm×2台
竣工年月   昭和56年3月
左舷機    検査場所  (株)池貝 川崎工場
検査の種類 中期検査
運転時間  新造からの総運転時間  16,423時間
前回整備からの運転時間  2,078時間
右舷機    (書類確認)
検査場所  (株)池貝 川崎工場
検査の種類 定期検査
運転時間  新造からの総運転時間  18,100時間
前回整備からの運転時間  1,620時間
(b)主な分解範囲(両舷機)
・シリンダーカバ(全数)
・ピストン抜き (全数)
・ライナー抜き (全数)
・主軸受    (全数)
・過給機    (全数)
・燃料噴射ポンプ(2個)
・空気冷却器  (全数)
(c)主な交換部品(両舷機)
・ピストンリング(全数)
・吸排気弁    右舷機 吸気弁32個 排気弁32個
左舷機 吸気弁11個 排気弁27個
・海水冷却ポンプ 右舷機 インペラ
左舷機 軸受
・シリンダライナ 右舷機 3シリンダ
左舷機 1シリンダ
・主軸受     右舷機 5個
左舷機 3個
(d)主な手入れ部品
・シリンダライナ 交換以外のライナはホーニング加工
・シリンダカバー(全数)
(e)調査結果
イ.年間の運転時間は、2,000時間前後で運転されている。
ロ.交換は、主として軸受ではオーバレイの剥離、その他部品は寸法限界近くまでの磨耗、変形、段差の発生のために行われていた。
ハ.手入れは、シリンダライナ等でのスカッフィング傷の修正の外、腐食部等の除去のために行われていた。
c.「レインボー」主機関整備状況現地調査
 平成8年1月8日、三菱重工汎用機械近畿(株)二見工場において(株)隠岐振興「レインボー」の主機関整備状況調査結果は、次の通りであった。
(a)調査対象
主機関    三菱重工 S16R−MTK−S
2,850ps×2,00Orpm×2台(右舷機)
建造造船所  三菱重工(株) 下関造船所
竣工年月日  平成5年3月
(b)検査及び運転時間
前回検査(2年目中間) 右舷機1号機 4,637時間
右舷機2号機4,000時間
今回検査(3年目中期) 右舷機1号機 総運転時間約6,687時間
右舷機2号機 総運転時間約6,708時間
(c)今回検査時の整備状況
 主機関は旅客船用として初号機のため、毎年、全分解の整備を行っている。運転時間は前回検査時から約2,000時間〜2,700時間、総運転時間で約6,800時間である。分解の結果は全般的に特に問題はないようである。主な交換部品は次の通りである。
・シリンダライナ 1号機 4シリンダ
2号機 6シリンダ
・ピストンリング(全数)
・吸気弁棒    1号機  1個
2号機  2個
・排気弁棒    1号機 13個
2号機 17個
(d)調査結果
イ.調査場所は整備機関等の関係もあって、2ケ所で2台ずつ整備している。これらの整備期間は約40日程度である。
ロ.整備後は負荷運転を行う。負荷運転時は減速機をカップルして行うため、減速機は1台のみ陸上げしている。なお、減速機は点検窓より、歯当り検査を行うこととなっている。
ハ.交換範囲には今後の解放インターバルの見直し資料とするため、主機関の製造工場に返却するための部品が含まれている。
ニ.本船の年間運転時間は約2,000時間であるが、これまですでに3回、毎年全分解を実施している。これまでの整備結果から基本的な部分では特に問題はなく、シリンダカバーの開放、ピストン抜き及びクランク軸の抜き出し等、今後における主要部の開放時期について現在検討中である。
d.高速船主機関の運転・日常点検整備管理の乗船調査
(a)調査対象船の主要目等
船  種  302G/T型軽合金製双胴型高速旅客船
船  名  レインボー
Loa×Lpp×B×D×d 30.0m×28.5m×11.8m×4.2m×2.8m
航行区域   限定沿海
航  路   4便/日
[1]便 別府→菱浦→西郷→境港
[2]便 境港→別府→西郷
[3]便 西郷→別府→七類
[4]便 七類→西郷→菱浦→別府
旅客定員   341名
乗組員    4名
航海速力   38ノット
主機関    三菱重工業 S16R−MTK−S  2,850ps×2,000rpm 4台
推進装置   三菱WATER JET
建造造船所  三菱重工業(株) 下関造船所
竣工年月日  平成5年3月
前回整備三菱重工汎用機械近畿(株)ほか
(b)実態調査結果の概要
 主機関の運転状況及び当日の整備状況の調査結果の概要は以下に示すとおりである。
イ.主機関の運転状況
平成7年10月31日、本船に乗船し、主機関の運転状況の調査を行った。
航 路  [2]便境港→別府→西郷
天 候  曇
旅 客  50名
(イ)10月31日、定刻境港を出港後、約10分間、船速制限(12ノット)区域を主機関回転数約1,100rpm(回転べースで約17%負荷)で通過した後、回転数を徐々に上昇して、通常の航海回転数約1,900rpm(回転べースで約86%負荷にセットされた。
(ロ)本船は全没型の水中翼船で、標準装置はウォータジェットであるため、主機関の回転数一定の航海において、風波浪(風速約15m/S波高約2.5m)の影響を受けても主機関の吸収馬力ほぼ一定であるが、かなり荒天航海であったこともあって船速は約35〜39ノットの間で変化が見られた。なお、運航ダイヤは回転一定で、十分確保されていた。
ロ.主機関等の監視装置
 航海中には、機関室等の現場における点検監視を20〜30分程度行うと共に操舵室より、テレビカメラ装置による監視を行っている。また、運転データは1日に2回程度、自動記録装置による記録を行っている。なおテレビカメラ装置による監視場所は次に示す9ケ所である。
・機関室   4(前・後部主機関×2)
・舵機室   2
・発電機室  2
・船  尾  1
ハ.運転修了後の整備状況
 日常の整備は別府(最終港)において、当日の機関部乗組員4名(2名×2チーム)で実施している。
 整備に要する時間は通常30分程度であるが、1カ月点検等で2〜3時間かかる場合もある。
 なお、主要部品は、別府港、七類港にも保管されている。
(2)救命設備の経年劣化に関する調査研究
[1] 概要
 救命設備の経年劣化の調査研究の対象として平成5年度は救命浮環、平成6年度は救命胴衣、作業用救命衣及び再帰反射材を取り上げてそれぞれ成果をあげることができた。平成7年度は固型救命いかだ、布製カバーの固型式救命浮器及びその各々に装着された再帰反射材を取り上げた。
 固型救命いかだは、膨脹式救命いかだに対応するものとして火災時にその影響を緩和するために内航油タンカー等の搭載用として開発されたものである。固型救命いかだは、浮体がFRP製であるため、その経年劣化は軽微であるとして今迄取り上げられなかったが、装着する天幕の経年劣化が著しいとの指摘があり、開発後30年余経過していることも考慮し、調査研究を行った。
 救命浮器は、主に内航の限定沿海区域及び平水区域の旅客船に使用され、水中にある人を有効に水面上に支えるものである。固型式救命浮器の内、布製カバーのものは、その経年劣化があることを指摘され、今回調査研究を行った。
 夜間海上遭難者の発見を容易にするため用いられる再帰反射材は、昨年度救命胴衣及び作業用救命衣に貼り付けられているものについて検討したが、暴露部と室内という格納状態の相違による影響調査と経年劣化に関する資料の集積のため、今回の調査研究において引き続き行うこととした。
a.供試品
 船舶等に搭載されていた固型救命いかだ(以下、救命いかだと称する)及び固型式救命浮器(以下、救命浮器と称する)を回収する。
 救命いかだについて、10年以上を経過したものを1台、救命いかだ用天幕は、経年の異なるものを3個、救命浮器は、布製外装のものを3台とする。また、それらに取り付けられていた再帰反射材を供試品とする。
供試品の数及び記号
救命いかだ     1個(記号:A−1)
救命いかだ用天幕  3個(記号:B−1〜A−3)
救命浮器(布製外装)3個(記号:C−1〜C−3)
b.試験項目
(a)外観質量等
(b)投下試験(救命いかだについて行う)
(c)浮力・乾燥試験(救命いかだ用天幕、もやい索、シーアンカー及び救命浮器外装布、救命索、同素取付部)
(d)再帰反射材の試験
(3)新型内燃機関の陸上試験方法に関する調査研究
[1] 概要
 旅客船に搭載されている主機関1号機に対する船舶検査の方法で定められている「新型内燃機関の陸上試験」方法は、昭和51年7月に通達されてから約20年経過し、この間平成元年1月に1部改正が行われて現在に至っている。
 その後、生産工学の向上とともに、機関の設計、生産技術も著しく進歩してきた。
 設計強度に関しては、機関の主要部分の運転中の作動応力のシミュレーション計算による解析技術、計測技術の進歩により、機関の強度的な耐久性が計算で確認できるようになった。
 また、機関の製造面では、加工、組立、運転中の一連の生産ラインの品質管理が大幅に改善され、品質の良好な製品が生産されるようになった。
 このような設計技術と生産技術の進歩から「新型内燃機関の陸上試験」の規定も適正へ向けて、見直す必要性が生じてきたものと思考される。
 本事業は、検査基準を見直すため、次の事業を行った。
[2] 事業の実施
 新型内燃機関の耐久試験省略に関して、機関メーカーが実施している機械的応力、熱的応力等提供されている主要部分の範囲は、どの範囲まで書類として提出されているのか等の実態調査、旅客船用主機関の出力率の向上に対する範囲についてのアンケート調査および旅客船主機関に使用されている材料あるいは新規材料等の材料検査の現地調査を実施した。
[3] 調査結果
 耐久試験省略のための強度計算は、機関メーカーのノウハウとも関連して、計算方法の具体的内容にまで踏み込んだ十分なものが得られなかった。
 内燃機関の出力率は、近代化、高効率化の要求に応えて著しく高められてきたが、一部に未だ旧来型の範囲にとどまるものもあったので、検査基準の見直し要求には至らなかった。
 また、内燃機関の主要部分の材料は、社会の設計、機関主要部分材料基準により選定されている等材料試験については、主要部分に対し、磁気探傷、超音波探傷等いずれかの非破壊試験が行われており、現行で使用されている材料に関して言えば、材料の健全性確認には十分な注意が払われていると考える。
■事業の成果

(1)高速船用高速ディーゼル主機関の整備等に関する調査研究
 3カ年計画の事業を予定どおり終了し、現地調査、アンケート調査等を踏まえ調査研究の目的である、高速船用高速ディーゼル主機関について
・運航中における点検及び維持管理について
・主機関の整備に関するインターバル、解放範囲等
・船舶安全法に基づく検査について
に関し、次のとおりまとめた。
[1] 運航中における点検及び維持管理について
 主機関は、機関製造者が定めた日常点検・維持整備マニュアルに従って行われていた。
 これらの整備点検作業は取り扱い者である乗務員によって実施している場合と航海時間や停泊時間が短い高速旅客船特有の運航スケジュールの関係から乗務員のみで実施することが困難となり、専門の整備班を陸上側に準備させておき、入港後直ちにこれらの整備班の手で行っている事例もあった。
a.平素(日常)の点検について
 主機関は、その稼動条件や気温、水温等の影響によって排気色や排気温度等にも変化をあたえながら運転されている。これらの状況の変化を機敏にキャッチし、迅速、適切な処置が行われねばならない。そのためには、定期的な状況監督と傾向の変化を知ることが必要であるが、高速船旅客の場合は、航海時間の短さや乗務員の数の関係で乗務員の手で行うには限度があり、キメの細かさが不足になりがちとなっている。高度省人化船ではデータロガーを採用し、無人で監視、記録を行う等をしてその役務を果たさせると共に、そのデータから主機関内部の状況変化や「トレンド」(傾向)を解析させるのも解決策の一つであろう。
b.維持管理について
 主機関製造者が提示した運転時間に対応した点検検査要領によって、点検から点検までを無解放で運転できるよう維持管理することは、安全確保の面では大切なことである。
 日常的な維持管理作業は、主に外部から作業のできる箇所を重点として行われる。すなわち、運転中の状態を監視しながら、良好な運転を維持し事故の未然防止を図るのに必要な簡単な保守作業が中心として実施される。
(a)不具合予防のための維持管理について(船内で乗務員が中心となって実施)
(b)事後の維持管理について(陸上支援を含めて実施)
 もし、異状が発生したり、又は兆候を確認した場合は、できるだけ早く処置することが肝要である。
 また主機関の継続的な安全で経済的な運転を目論むために、これらの維持管理のための整備実施状況を記録しておき、次回の整備の参考資料とし、効果的でタイムリーで点検整備ができるよう配慮することが必要である。
c.運航中の維持管理のための支援体制
 維持管理を円滑に行うためにはできるだけキメ細かい支援体制を確立させる必要があり、次の項目についての充実が望まれる。
(a)維持管理マニュアルの調製
 主機関製造者の基準マニュアルは、標準的なものであって、各般毎の実情を加味したものとはなっていない場合が多いので、運航時間や負荷状態等の運転状況を反映させた維持管理のためのマニュアルを、各船毎に作成しておく必要がある。
(b)監視データの解析
 経時的な変化、いわゆる「トレンド」を解析することにより、衰耗状態や交換リミットの到達を事前に判断することができ、事故の未然防止や無駄のない整備が可能となる。
 このための監視装置を船内に搭載し、乗務員の判断の一助とするとともに、さらには、これを陸上設備に接続して遠隔監視を行い、広範囲な体制の中で運用することにより、いっそう効率的な管理が可能となる。
(c)支援体制の整備
 整備作業に対する支援に関して、人員数の確保もさることながら、作業員の質の向上も重要な要素である。これまでの調査においても整備不良によるトラブルが指摘されているが、その原因の中には作業の質に起因すると考えられるものがある。
 作業員は必要な技能資格の取得やメーカーによる講習の受講を行い、質の向上を常に心がける必要がある。
(d)交換部品の補給
 維持管理のためには部品の交換を必要とする場合がしばしば発生するが、そのための交換部品はタイムリーに供給されねばならない。過剰な量の所持は経費の無駄となるのみならず、その管理に多大な労力を必要とすることとなるので、常時の保有量は必要最小限に止め、必要の都度補給できる体制を確立しておくことが望ましい。
 また、現場での作業時間短縮や作業の確実性を確保するためには陸上で事前に整備しておいて部品と交換する方式をできるだけ広範囲に採用することが望ましい。
[2] 主機関に関する解放インターバルと解放範囲等
a.解放インターバルとその範囲について
 主機関の解放範囲及び解放インターバルは、船舶安全法に基づく、関係規則により定期的検査の時期に行われ、整備の詳細及び部品の取替え等については、機関製造者が定めた整備基準で実施されている場合が多いようである。
 また、ほとんどの主機関は定期的インターバルにより、整備がなされている。この場合、運転時間の短い主機関においては、点検整備時期を定期的インターバルではなく、運転時間をべースとして適切な時期に整備することにより、安全性の確保は勿論、合理的な整備が可能となるという意見が多い。
 この場合の整備基準は、通常運航における運転・整備記録、不具合記録並びに定期整備における解放範囲、計測記録、交換部品及び交換理由等の実態を十分踏まえて作成されたものとしなければならない。
 また、運転時間による管理方法をより適性なものにしていくためには、運転時の負荷条件、例えば、トルク回転数の影響度合から始めて、船としての使用条件、環境条件等の機関の損耗度に影響を及ぼす多くの要因について検討し、整備の内容に反映させていかなければならない。
 したがって、このような高性能のハイテク構造と新材料による高速機関は従来型機関と異なり、その特性と特殊な使用条件によって解放検査のインターバル及び解放範囲はそれぞれ異なった形にならざるを得ないと言うことが、過去3年間の実機整備の現状調査からわかってきた。
 このような高速機関は、各社各様で個性に富んだ機関が開発されており、これらを全て同一の整備検査基準によって規定することは、無理な点があることが今回の調査研究の中で明らかになってきた。
 即ち、各機関のノウハウを活かした整備基準を機関製造者が作成し、前項の維持管理マニュアルの場合と同様に運行事業者及び整備事業者間で十分に検討し、それに基づいて分解・整備を行うことは、高速船の安全運行の面及び経済面からの妥当な、かつ最適な方向ずけではないかと考えられる。
b.定期整備の整備場所について
 主機関の整備状況についての現地調査及びアンケート調査結果によると、整備場所は、ほとんど造船所、または指定整備場所であり、船内整備は非常に少ないものとなっている。
 船内整備が少ない理由としては、機関室が非常に狭く、また、主機関自身も非常にコンパクトであるため、分解、洗浄、掃除、組立等の作業が難しい上、これらの作業には、高度な精度が要求される等があげられる。
 また、故障事例より勘案して、船内での点検のための解放は、シリンダカバーの解放・附属ポンプ等の外部附属機器類にとどめ、クランク室内で工具を使用したり、クランク室に異物が落下する恐れのある解放作業を船内で行う場合は充分な注意と作業環境の整備が必要である。
[3] 船舶安全法に基づく検査について
 船舶安全法に基づく検査は、機関の安全運転を確認するのが目的である。
 したがって、解放検査のインターバルと解放範囲については、機関の損耗状況、あるいは安全性が確認できるような状態が準備されるように設定されればよいと考える。
 このような考え方に基づいて、本事業で得られた調査結果、運転時間を考慮した検査が合理的であると考える。
 更に、運転中の負荷の状況が把握できれば更に合理的であるとの考えから次の検査の特例を提案する。
a.稼動時間の短い旅客船(湖川のみを航行するものを除く)の高遠ディーゼル主機関の検査の特例(案)
 前回主機関の解放を行った検査(定期検査の方法に従って機関の解放を行った場合に限る。)の後の運転時間が4,000時間を超えていないもので、保守・整備に関する記録、事情聴取等から判断して差し支えないと認められる場合は、定期検査又は第一種中間検査において当該主機関の解放検査に代えて外観検査及び運転検査を行う。
 この場合、主機関の解放検査(定期検査の方法に従って行うものをいう。)の間隔は、運転時間4,000時間及び定期検査毎の期間のいずれも超えてはならない。
 また、主機関の負荷が常時、連続最大出力の80%以下であることが、負荷記録装置の記録等により認められる場合には、前記運転時間4,000時間を5,000時間とすることができる。
b.その他の検査方法に改正についての要望
(a)近年の主機関は、その製造方法並びに整備作業の品質管理と運航中の監視技術等の向上により、2基以上の主機関を搭載する船舶にあっては、全主機関が同時に故障が生ずることは、極めて稀であると考えられる。
 このようなことから、1基が故障した場合には、平水又は限定沿海区域を航行区域とする船舶は緊急的に寄港が可能であることを考慮し、主機関の検査のインターバル及び解放範囲は、それぞれの機関の運転負荷・運転時間を考慮し合理的に設定できるようにすることが望ましい。
(b)船体、主機関並びに出力軸系が剛構造であって、クランク軸の出力軸端継ぎ手部において、軸芯を合理的に測定可能な場合のみ、この軸芯測定をもって、クランク腕開閉量の計測とみなすことができると思料される。
(2)救命設備の経年劣化に関する調査研究
[1] 試験結果
a.固型救命いかだ及び天幕
 今回供試品の救命いかだ本体は経年16年であるが、FRP部の劣化は、外観からは認められなかった。しかし、ロープ、テープ等の索具類及び天幕布の劣化は顕著であった。
 ポリエステルテープ及びゴム管により構成されている乗込みはしご2カ所の内、1カ所に、テープ及び縫い糸の劣化によると思われるはしごの破損があった。
 ポリエステルテープのもやい索の強度保持率は経年16年で8%になっていた。
 天幕布や転覆防止用シーアンカーに使用されているゴム引布は、紫外線によるオゾン、湿度等の影響を受け、ゴム層の硬化、ヒビ割れが発生し、擦れや揉みにより基布からゴム層が剥離する。
 今回の天幕C−2及びC−3はこの状況がさらに進んだものと考えられ、暴露部に著しい劣化が観察されている。
b.固型式救命浮器
 外装布の強度については、暴露状況及び再塗装の有無によると思われる劣化状況の差が観察された。C−1は、最上段に搭載されていなかったこと、及び数度にわたり再塗装されていたことで比較的劣化が少ないのに対し、C−2及びC−3は、最上段で暴露されたため、劣化が大きかった。特に再塗装が行われないで7年経過したC−3は、上面の暴露面のみ樹脂コーティングが消失した結果、基布が露出し、大きな強度劣化を示している。このことから、基布に対する紫外線からの保護が重要と考えられる。
救命索の強度劣化も見られたが、途中で交換されている可能性もあるため、正確な経年劣化状況は不明である。
 救命索取付部の強度についても、初期値が不明のため、経年劣化の状況は把握できなかったが、布地及び縫製糸の劣化があると推定される。特にC−1は、平均で57.7Kgfと他の供試品より大幅に低い結果であり、外観状態が良くても、経年(23年)により劣化が発生していると考えられる。
c.再帰反射材
 しわ及び割れが、B−1及びB−3(いかだ天幕)の場合に多く見られたが、これは経年による樹脂の硬化によるものと考えられる。
 C−3(浮器)及びB−1(いかだ天幕)の場合に見られる反射層の腐食は、塩水、紫外線、湿度等の影響による金属アルミの水酸化アルミへの変化と考えられる。C−3(浮器)における表面フィルム(ウレタン)のひび割れは、塩水、紫外線等による樹脂の変化と考えられる。また、一部の試験片に黴状の汚れが認められたが、これは、当時の試験基準に耐黴性が要求されていなかったためで、現在のものは、耐黴性の基準を反映して耐黴性の樹脂が用いられている。
 今回は、供試品の数が限られていたため、経年による性能変化の状況は把握できなかったが、C−3(浮器)の状況より判断すると、昨年度の結果と同様に経年よりも、使用程度の差により性能劣化の原因が発生していると考えられる。
[2] 保守点検又は交換時期について
a.固型救命いかだ及び天幕
 FRP本体よりも、ロープ、テープ等の索具類及び天幕やシーアンカー等の布地類の劣化に注目すべきである。特に天幕は劣化が著しく、今回の供試品から判断すると、2年程度の暴露で使用に耐えない状況である。日常の点検により、外観に異常が認められたら交換する必要があろう。また、適当なカバーで、暴露から保護することにより寿命を伸ばすことが望ましい。
b.固型式救命浮器
 暴露による外塗布の退色及び強度劣化が観察されており、最上段に搭載された場合、経年7年で使用に耐えない状況と判断される(C−3)。いかだの場合と同様、適当なカバーで保護するか、又は定期的に再塗装を行うことで寿命を伸ばすことができると考えられるが、外塗布が損傷した場合は、新品と交換する必要がある。
c.再器反射
 今回の調査で再帰反射材の損傷や外観変化の著しいものは有効な反射性能を有していないことがわかった。別紙(省略)の方法による交換が望ましいと考える。
[3] 3年間の経年劣化の調査研究
 救命設備の経年劣化に関する調査研究の一環として、初年度は救命浮環、2年度は救命胴衣及び作業用救命衣ならびにこれらに装着される再帰反射材、最終の本年度は固型救命いかだ及び布製カバーの固型式救命浮器ならびにこれらに装着される再帰反射材の経年劣化を調査検討した。
 本調査研究の実施に際しては、船舶に搭載されている経過年数、型式等の異なる各種の救命器具を回収し、種々の性能試験を実施し初期における性能と比較検討した。
 その結果、製品・材料の性能劣化に関して、製品の型式・使用材料、本船格納状態、経過年数、使用頻度の違いによる影響が具体的に明確化され、各種救命器具の有効限度、補修・交換時期、品質向上に関する知見を得た。また、検査官、使用者による外観検査と性能試験による製品・材料の結果状態との関係についても調査し、検査の重要性を具体的に示した。
 更に、製品の使用・保管方法、補修・交換の判断基準及び補修・交換方法についても若干の検討を行った。今後、これらに関して更に詳細な検討とマニュアルの完備がされることを期待する。
(3)新型内燃機関の陸上試験方法に関する調査研究
 本事業を実施した結果、新型内燃機関の機関製造メーカーの要望であったマニュアルの作成については、新型内燃機関の耐久試験省略申請書を作成のための技術的マニュアルを作成することができた。
 また、例えば、すでに承認された機関で、シリンダ数のみが異なる場合は、類似型機関に含めるのかどうか等の定義を明確化した。さらに、同型機関で、10,000時間の実績があっても、連続運転試験のみ省略されなかったものが、技術解析資料により主席検査官の承認を得れば負荷変動試験をも省略できるようになるなどの改正報告書ができ、相当の成果が得られた。





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION