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■事業の内容

(1)大型肥大船船尾流場推定法の高度化研究
[1] 粘性流場計算法の改良・開発
 従来使用されていた一般の乱流モデルは極めて薄い境界層の計算には適用できるが、船体周りのような3次元性の高い局面では不十分であり、船体周りの流場を正しく表さない。このため、船体特に船尾付近の粘性流場を正確に表現できるように、幾つかの数学的な乱流モデルについて改良を行い、乱流変数を増した高次モデルの導入、流れの圧力勾配の修正、境界層計算の高度化等を図った。改良した乱流モデルの応用方法は単に船体抵抗そのものを求めるだけでなく、自航状態においてはプロペラより発生する流れの干渉影響が生じるため、プロペラ理論と乱流モデルとを結合する必要がある。このため、簡易プロペラモデルと複雑な揚力面理論モデルとについて乱流モデルと組み合わせた改良を行った。また、次項の自由表面流れの検証用として、船体周囲に生じる波紋の計測等を実施し、乱流モデルの改良に役立てた。
[2] 自由表面流れの計算法の改良・開発
 乱流モデルの適用においては、船舶に特有の自由表面に生じる波や船首部で生じる磁波を表現できなければならず、さらに喫水変化に対しても計算が可能でなければならない。このような問題に対処できる数学モデルを構築するためには、静止水面より上方にまで計算できるように、次項でも述べる計算格子の生成法も含めて検討することとなる。本研究ではこれらの問題を検討し、かなりの精度で自由表面流れの計算が可能となった。
[3] 船体形状表現法の研究
 乱流モデルの計算においては、計算の収束性がよく、精度が高く、計算時間の短いことが必要であるが、このためには計算に用いる格子の生成法とその形状等が大きく影響する。本研究ではこの目的に合うように格子生成法の検討を行い、特に船体の局面の複雑な箇所や、船首尾付近にも適用出来るような格子を固定しない非構造格子法、分割度を変えたマルチブロック法等の研究を実施し、その有効性を確認することができた。
(2)大型肥大船船尾流場の実用的計算法研究
[1] 船尾流場推定法の適応性検討
 上記(1)項で改良された乱流モデルを実際の設計に適用できるように、各社で分担してチューニングする改良作業と試計算を繰り返し実施し、その結果を用いてさらにチューニング作業を行い実用的な計算法に仕立て上げた。計算コードは大別すればNICE法とWISDAM法と名付けた2種類であるが、その改良形を含めると4種類となる。これらを用いて、流場の計測資料が比較的整備されているSR196A、B、及びCの3船型、SR221A、B、及びCの3船型、実際の船型2種の合計8船型について計算を実施し、抵抗値、流場、自航要素をはじめ船型変化への追従性等を詳細に調査し、ほぼ初期の目的を達成したことを確認した。
[2] 関連利用技術の調査・改良
 船尾流場を実用的なレベルとするためには、膨大な計算に必要な格子生成法を含む前処理方法と、計算結果を判り易く表現する後処理方法が極めて重要となる。このために、現在長足に進歩しつつあるCG(コンピュータ・グラフィックス)等の技術を活用し、流場、水圧分布、伴流、抵抗分布等をビジュアルに映像化できる作画技術を完成した。
(3)模型試験
[1] 模型試験による詳細データの取得
 水面下船体の鏡像模型2種類を用いた風洞試験を行い、3次元熱線流速計により船体周囲の乱流、レイノルズ応力等の詳細な計測を行った。このためには、事前に円管など周囲流場が既知のものについて基礎的試験を実施し、計器精度や測定法の確認を行っている。さらに、計測データに影響を及ぼす風洞壁面の摩擦応力の計測実験や、模型を置いたことによる風洞への影響(blockage effect)も十分に調査した。また、回流水槽により船尾周りの流場観測実験を行い、風洞実験では得られない限界流線等のデータを得た。
[2] 船尾流場推定法の評価
 上記の模型試験の膨大なデータは、フロッピィディスクを媒体として前記の乱流モデルの改良、実用的計算法のチューニング等の実施担当者の計算機に移植され、計算結果の検証に利用され、船尾流場推定法の評価に役立てられた。
(4)大型肥大船船尾流場推定法のとりまとめ
 上記に述べた乱流モデル、格子生成法、数値計算コード、後処理法のそれぞれについて改良を実施し、多種類の船型へ応用し、この全体をまとめて流場推定法を構築した。
■事業の成果

これらの研究の成果として、従来の理論計算では殆ど不可能に近かった粘性を持つ流場において、波の発生を考慮しない船体摩擦に基づく基礎粘性流場の推定法、波の発生に基づく造波粘性流場の推定法、及びプロペラ・舵の影響を含めた自航時粘性流場の推定法がほぼ確立され、一応の精度で実際の設計に使用出来る見通しが得られた。推定精度は未だ十分とは言えず、レイノルズ数の制約があり、使用する数学モデルも限定されているが、数値流体力学を設計に適用できる道を開いた成果は大変に大きいものと考えられる。
 本研究により、先ず従来の模型試験中心の船型計画法から流場解析的船型設計法への道が開かれた。従来の方法では多大の時間と費用とを要し、船型改良のポイントが明確でなく、設計のための情報量は極めて少なかった。これに較べて、流場解析的船型設計法は時間と費用が少なく、原因である船型から結果としての抵抗値を得る間に流場という大量の情報量が得られ、かつ条件を変えてそれぞれの過程を計算しなおした結果が判り易いCG表示で得られるため、“船体のどこから、どのような抵抗が増加しているか、その改良のポイントは何か”などが短時間で把握できるようになる。これは船舶のハイパフォーマンス化、コスト低減、新規需要の創出に有効なツールとなるものと思料される。





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