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■事業の内容

本年度は、平成5年度に調査研究を行い設計製作した北極海航路用船型シリーズ模型を用い、氷水槽において水中性能試験、プロペラ・砕氷片の相互干渉、一般水槽において開水域における基本性能試験を行い、シリーズ船型の性能評価のためのデータ・べースの構築に努めた。また、航行性能評価の上で欠かすことのできない、北極海航路沿いの氷況等の検討を行い、航行安全性の要点の一つとなる氷盤と波浪の干渉についても計算及び実験を実施して検討を加えた。
(1)最適船型の開発に関する氷中及び開水中模型実験
 北極海航路の最適船型を開発するための基礎データを取得するために模型船実験を行った。
 平成5年度は最適船の主要目決定と従来型の船種3種、船尾2種、プロペラ2種の設計と模型製作を行い、平成6年度は我が国における代表的な氷海試験水槽をもつ運輸省船舶技術試験所、三菱重工業長崎研究所、日本鋼管エンジニアリング研究所の3機関において、これらの模型を用いて持ち回り試験を実施した。
 本年度は、これまでの研究成果を受けて、改良型の船種と船尾を設計・製作した。この模型船を用いて、平坦氷中の抵抗試験、自航試験、旋回試験の他、平水中の性能試験を行った。また、砕氷現象と水中性能の関係をより深く考察し、合理的かつ効率的な最適船型の設計に結びつけるために、従来型船型を用いて抵抗成分分離のための追試験も行った。さらに、実際の運航において重要となる氷丘脈突破性能、乱氷中性能についても追試した。
(2)氷海用プロペラの特性解析及び氷との干渉に関する研究
 前年度は、プロペラと水との干渉問題に関して、水との干渉結果によるプロペラトルク及びスラスト等に対する影響について、模型実験並びに計算による研究を行った。
 本年度はこれをさらに発展させ、プロペラ設計の観点に立って各種荷重についての詳細な研究を行うために、前年度作成した大直径プロペラをプロペラトルク等を測定できるよう改造を行った。さらに、プロペラの改造にあわせて、計測した信号を取り出すための動力計の改造も行った。
 これらを用いて、水中での氷片流し込み実験、空気中での氷片流し込み実験及びブロッケージ実験を行った。
(3)水盤と波浪の干渉に関する研究
 前年度は水盤と波浪に関する研究の第一段階として、波浪による氷板の変形に関する理論解析を行った。これらの成果を実用段階に発展させるためには、いくつかの問題が残されているが、その主なものは、海洋波浪の不規則性の評価と氷板破壊の実証的な検討である。
 そこで、本年度は、不規則波浪と氷板の干渉に関する実験、及び模型氷を用いた実験による氷板の破壊に関する検討を行った。また、北極海航路に沿って港湾が建設されるとすれば、波浪と氷の影響を極力避けるために、港内に建設されることが予測され、このような水域の結氷予測は港湾管理にあたって不可欠であるため、半閉鎖水域の全面あるいは部分結氷を予測するモデルの開発も行った。
(4)実氷海域データの分析
 前年度は北極海の地域的問題に注目して、対流が止まった状態で結氷が始まる塩分量25%以下の低塩分海域が北極海航路の約3分の2を占めること、冬の北半球海氷域分布には海域間にシーソーを伴う年々変動が存在することなどを検討した。
 今年度は夏期の北極海航路海域の海氷状況と気象状況の分析を試みたが、現在、北極海航路海域の実海氷域データの分析に使用できるような、データベース化された資料はほとんどない。そのため、ロシア、カナダの研究者を国立極地研究所及び船舶技術研究所に客員研究者として招聘し、各氏と国内研究者が研究打合せ及び研究討論を通じて情報交換を行い、本研究目的に適合する資料の提供を受けて分析を行った。
■事業の成果

北極海航路用船舶の船型性能の評価は、氷海試験水槽での模型試験によって行うが、氷水槽で用いられる模型氷は、現状では全ての水中の現象、課題に適用できるものではない。広範囲な氷況、氷質の変化がある北極海航路では、氷水槽での模型氷の性状の相違を積極的に生かして、氷中の模型試験結果を評価することが必要である。このため、相互に氷質の異なる氷水槽を有する運輸省船舶技術研究所、三菱重工業長崎研究所、日本鋼管エンジニアリング研究所の3機関において、北極海航路用の商船を想定した模型船を用いて、同一模型船の持ち回り試験を実施した。本事業の最終年度にあたり、これまでに3氷水槽において実施した、平坦水中の抵抗試験、自航試験、旋回試験、氷丘脈中の抵抗試験、一般水槽(開水域対応)における基本性能試験、過負荷試験、旋回試験等の結果に、本年度実施した追加試験結果を含めて取りまとめ、船型シリーズ9隻(4船首−母船(A)、Spoon型(B)、Polarstern型(C)、新型(D)、3船尾−母型(a)、極端なU型(b)、新型(d)、2プロペラ−通常型、ノズルプロペラの組合せ)についてそれぞれの船型特性を確定した。その結果、船首、船尾とも、平成6年度の試験結果を踏まえて新たに設計・製作した改良新船型が、またプロペラについてはノズルプロペラが優れており、最適船型として提案した。
 また、北極海航路航行用船舶では、性能上も運航安全上も重要となるプロペラと氷板あるいは氷片との干渉現象を解明し、船舶設計の基本性能データの整備捕捉を図るため、通常プロペラ及びノズルプロペラについて、氷水槽における模型試験を主体とする研究を行い、氷片・プロペラ相互干渉機構を解明し、基本設計に資する成果を得た。
 夏期の北極海航路では、海氷と波浪が共存する海域が広がることから、波浪の影響を受ける氷盤が航行船舶の航行性能及び船体強度に及ぼす影響を検討する必要があること、今後北極海航路沿いに整備される港湾施設の計画、設計に必要な資料の整備が急がれることから、まず、氷盤と波浪の相互作用について研究を行い、不規則波と氷板の干渉、波浪による氷板の破壊、半閉鎖水域の結氷予測について、その基本機構と水盤挙動を明らかにした。
 北極海航路の海氷状況は年毎及び場所により大きく変わるため、最適船の航行性能を合理的に評価するためには、航路沿いの氷況データを収集、分析し、季節毎の平均氷況又は標準氷況を設定した上で、航行シミュレーションを実施する必要がある。このため、北極海航路北東航路を主管するロシア、北西航路を主管するカナダから代表的研究者を招聘し、我が国関係研究者と協力して、それぞれ北極海研究の核心となる問題の検討、取りまとめを行い、氷況データの現状認識、氷況データ解析システム等について貴重な知見を得ることができた。
 これらにより、我が国の砕氷船等の特殊船舶関連技術の構築及び氷海関連技術の向上を図ることができた。





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