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■事業の内容

本事業は、小型高速艇の性能向上に関し、船型・アペンデージ、空気流体力、船体運動、気象・海象、データベース、材料・構造の各分野におけるあらゆる技術開発課題をコンピュータ等最先端技術を駆使して、アカデミック、かつシステマティックに調査研究し、最高効率の艇の設計手法を確立することを目的に平成5年度(5年度は財団自主事業)より実施してきた事業である。これまでの2年間において、高速帆走艇の総合工学的開発技術とそれを支える要素技術の開発を、理論解析、模型実験、実船実験等を有機的に連結した研究法をもって、実用的な面からのフィードバックも含め、新しい開発手法を追求しつつ実施してきて本年度は、本事業の最終年度としてこれまで取り組んできた新しい開発手法を実例とともに体系化して整理完成させ、将来の各種の技術開発に応用可能な形とすることと、一部の重要技術に対して開発を継続して完成させることを目的として実施した。
(1)CFD(計算流体力学)と結合させた動的VPP(帆走性能推定プログラム)の基礎開発
 高速帆走艇は傾斜して斜航する上に、風の変化などにより方位角を変えたりタッキングを行うなど、大変動的な運動を行う。特に風上帆走の際の運動とそれに伴う流体力は大変複雑微妙であり、これが艇の性能のかなりな部分を決定してしまう。よって、下記のとおりこれら模型実験で再現できない複雑な流れをCFDシミュレーションで再現し、動的な運動は移動格子技術を開発し、これらを運動方程式及びセール力とキール力を組み合わせ、CFDと結合させた動的VPPの開発を行った。
(2)波浪中抵抗増加の推定法の開発
 船体形状やアペンデージ、重量配分などと波浪中抵抗増加の関係についての検討を行うため、更に高度な理論推定法や簡易な初期設計法の開発、及び系統的水槽実験の実施などを行った。
[1] 船体関係
a.AC出場艇の定常航走性能を比較評価するために、CADと連結させる新しい有限体積法によるシミュレーション法を開発した。
b.上記の方法を代表的な船型に対して適用し、シミュレーションを行い比較評価を行った。
c.AC出場艇の動的性能を評価するために、移動格子法を用いて、有限体積法シミュレ一ション技術を開発した。
d.上記の方法を代表的な船型に対して応用し、シミュレーションによって比較評価を行った。
e.1/7模型船を用いた水槽実験によって動的な運動中の力の変化を計測し、模型による動的特性の詳細を比較評価した。
[2] セール関係
 高速帆走艇のセールに作用する流体力は、セール形状やセールトリム、風向・風速・艇の帆走状態などの影響を大きく受ける。このような影響因子は複雑に絡み合い、そのため、従来、セール流体力の精度の良い推定は困難であった。よって、このような複雑に絡み合った因子を考慮し、セールに作用する流体力をCFDにより精度良く推定することを目標として、CFDシミュレーション技術の開発を行った。
a.セール形状計測技術の開発
 セール流体力の精度の良いシュミレーションを行うためには、実際の帆走艇のセール形状を把握する必要がある。よって、これまでに開発されてきた2次元的セール形状計測法を性能アップさせてカスタマイズを行うとともに、AC出場艇のセール形状解析及び性能解析を行った。
b.セール形状表示技術の開発
 セール流体力のシミュレーションにおいては、セール形状が精度良く表現される必要があるため、これまでにワークステーション上で開発されたセール形状表示用ソフトを、より使い易くするために機能追加を行った。
c.セール性能解析
 セールの静的性能(揚力、抗力、揚抗比等)をパラメトリックに解析し、さらにこれまでに性能が良いとされていた実際の高速帆走艇のセールについても性能解析を行い、性能差がどのように現れるかを検討した。
(3)体系化項目
 これまで取り組んできた不記項目についてそれぞれ作業を行った。
[1] VPPプログラムの完成整理
[2] ヨーバランス判定法の整理
[3] バルブ及びウイングレット設計法の体系化
[4] ウィング効果測定法の体系化
[5] 気象、海象の予測法の体系化
[6] 計量化設定法の体系化
[7] 実船実験支援システムの体系化
(4)とりまとめ
 これまで実施してきた3年間の事業内容、成果及び今後の研究開発課題について報告書にとりまとめた。また、これまでの実験、解析、調査等で得られた全てのデータについては、今後の活動に活かすことを考慮し、後で見て判るように資料の形に整理した資料集にとりまとめた。
■事業の成果

本事業は、造船技術の基本にたちかえって小型高速艇の性能向上に関し、コンピュータ等最先端技術を駆使し、最高効率の艇の設計手法を確立することを目標に実施したものである。我が国がこれまで積極的に行うことのなかったこの種の研究開発を効果的かつ集中的に実施するため、各技術開発課題毎に6つの分科会(プロジェクトチーム)を設置し、それぞれ専門的な活動を3年間にわたって行ったが、その活動の一つの重要な結果が、第2年度に世界最大のヨットレース「第29回アメリカズカップ」に現れたことになる。必ずしも充分満足できる結果ではなかったが、その原因は研究開発の質と量にあるのではなく、その成果を実際に適用することに多大の困難が生じたことによるものと考えられ、この3年間の活動で得られた成果を一段と発展させ、小型高速艇の開発能力を諸外国を越えるようにするため、今後力を入れていかなければならない研究開発課題が明確になったことは、小型高速艇のみならず将来の我が国造船業の技術開発に広く波及効果をもたらすものと確信できるものである。特にこれまで各種の水槽を用いた実験により検証されてきた船舶や海洋構造物に関する水の流れを数値シミュレーションによって求め、流場の速度分布・渦分布・船体表面摩擦分布等、実験では取得不可能な詳細データを出力させ、船型の最適化を図るCFD(計算流体力学)を利用した船体設計手法の研究は、CADと組み合わせることにより、従来、設計者の経験と勘や大きな労力、限られたデータのもとで行われてきた船舶設計法に大きなインパクトを与えるもので、今後の開発により、迅速、高精度で、特に過去の技術蓄積の乏しい新形式船型の設計に威力を発揮するものとして期待できるものである。





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