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■事業の内容

本研究開発は、船舶の船首、船尾部の曲がり外板製作工程において、作業員の勘と手作業に頼る鋼板の3次元曲げ加工作業を自動化し、今後の曲げ加工技術を維持、向上させることを目的とするもので、本年度は全体を3段階に分類したうちの2段階目に当たり、自動加熱曲げ、計測装置を互いに接続し、曲げと計測の自動制御データを発生させるソフトウェア、並びにその実験値、加熱曲げ理論値、及び生産設計情報等のデータを収納し、最適加熱条件を推測処理できるデータベースの開発を実施した。
(1) 自動加熱曲げ装置の開発(進展実験、データ収集)
 平成5年度で製作した自動加熱装置を用いて、実船部材と相似形のモックアップ材及びテストピースで長期加熱運転実験を行い、加熱曲げデータ収集及び装置の改良を行った。なお、収集データより加熱条件と変形の相関を求め、各パラメータの設定を行った。
[1] 実験データ収集
a. 厚板12〜25mmの小型試験片において、一定の加熱条件、速度可変で、直線、ウィービング、三角、お灸の各パターンの加熱実験を計測実験と組み合わせて行った。
b. 実船部材及び相似形部材の加熱実験
 6体の実験部材について、現場作業員の指示により加熱装置ヘティーチングし、自動加熱曲げ実験を行った。
[2] 解析、パラメータ設定
a. (1)-[1]で収集したデータを解析し、パターン毎に異なった板厚の変形量をほぼ1本の曲線でまとめるパラメータの設定を行った。
b. (1)-[2]で生じた終始端、一次停止部のワーク溶融及び水冷方向等の不具合対策をまとめ、追加作動をパターンプログラム化した。

(2) 自動計測装置の開発
 平成5年度で製作した自動計測装置を用いて、実船部材と相似形のモックアップ材及びテストピースで長期計測実験を行い、計測データ収集及び装置の改良を行った。また、収集データを解析し、各テレメータの設定を行なった。
[1] 実験データ収集
a. 小型試験体での実験
 1-(1)-[1]の加熱実験小型試験片の色変形量計測のためレーザ変位計を本体に取り付け、試験体上で低速走査させると共に収縮量の計測ダイヤルゲージを小型試験片端部に取り付け、両方の出力データをアンプを介してペンレコーダに記録し、変形データを収集した。
b. 計測装置の改良
 平成5年度に製作した計測装置に現場適用を想定した改良を加え、計測範囲の拡大、能率向上等の性能の改善を行った。
[2] 計測装置の重要なパラメータである計測ピッチについて、計測ピッチと計測誤差との関係についてシミュレーションを行い、各測定ピッチでのデータを造船原図で補間関数として最も一般的に使われているスプライン関数によって補間したときの真値との差を求め、最適ピッチ値の検討を行った。

(3) 自動曲げ加工制御システムの開発
 生産設計情報、自動加熱装置、自動計測装置をリンクさせ、曲げ材に対して一連の手順が自動運転可能となるシステムの設計、製作を行った。
[1] 生産設計情報の調査
 生産設計より出力される部際形状(展開形状)、曲げ型形状(基準線上の当て型形状)のNC情報について調査し、情報の受渡しのデータフォーマットの決定を行った。更に、部材上に加熱計測を行うための原点、現基準ラインが必要なことから、現基準線の利用によるか、新規決定かの検討を行った。
[2] システムの設計
a. 生産設計情報と実形状の重ね合わせ
 実際の形状測定結果と生産設計情報をコンピュータの画面上で重ね併せて表示し、検討を行った後、計測データをパソコンからEWSへ転送し、別途オフラインで入力した生産設計情報との画面上対比表示確認を行うシステムの設計を行った。
b. オフラインティーチングシステム
 加熱、計測システムをソフト的に統合し、パソコンのグラフィック画面上でティーチングすることによって、素材単位での加熱パターンが自動的に生成されるオフラインティーチングシステムの設計を行った。
[3] システムの製作
 設計に基づき、生産設計情報と部材の形状を重ね合わせてコンピュータ画面上で表示する「自動計測・部材形状グラフィック表示システム」のプログラム製作を行った。

(4) 自動曲げ制御用データベースの開発
 実績、加熱曲げ理論値、生産設計情報等のデータを収納し、最適加熱条件を推測できるデータベースの設計・製作を行った。
[1] データベースの設計
a. パラメータの絞り込み
 データベースに登録すべき項目を実船の作業区分調査結果より検討し、検索パラメータはメインのデータベースとサブのデータファイルに分割し、設計を行った。
b. データベースシステムの設計
 パラメータにより、あらゆるデータ検索処理を可能にし、データベース内の諸情報を参照、流用し、同型及び相似形状部材の最適加熱条件と経路を推測できるシステムの設計を行った。
[2] データベースの製作
仕様に従い、プログラムの製作を行った。
[3] データベースのデータ収納
加熱実験、計測実験で収集したデータのデータベースヘの収納を行った。

(5) 曲げ加工周辺装置の開発
 曲げ加工材に対して、外力を自動的に加えながら加熱自動運転ができるオフセット定盤、クランプ等周辺装置の配置、システムヘの結合構想及び設計を行った。
[1] オフセット定盤、クランプの結合構想
a. 現状調査
 アンケート調査より、加熱曲げ加工は加熱時に治具を用いて外力を加えていることから、これらの手法について調査を行った。又、現状拘束治具として最も多用されているネコジャッキにどの程度の荷重が作用しているか、実船での調査を行った。
b. オフセット定盤・クランプの機構の構想
 各治具の種類、使用方法、荷重等の現状調査結果から、周辺装置である定盤、クランプ機構の全体構想の決定を行った。
[2] オフセット定盤、クランプの設計
 「オフセット定盤・クランプの機構」の構想をもとに、各使用パーツ、方法、制御等の検討を行い、設計、図面化を行った。
■事業の成果

本年度は、第2段階を5項目に分類して研究開発を行った結果、自動加熱曲げ、計測装置等のハードウェア開発についてテストピース、実船部材による各種条件のもとでの最適加熱・計測条件をパラメータ化及び装置の現場適用性向上化の改良ができ、現場作業員からも好評を得た。
 又、本年度開発研究のメインである自動曲げ加工制御・データベース等のソフトウェア開発についても、製作、性能確認を終え、装置間を結合しての生産設計情報〜自動運転、データ収納・検索、推測等一連の運転を可能としたシステムを完成させることができた。さらに本システムと連動して曲げ加工材に対してが要り行くを加える周辺装置の現状調査、検討を行い、より現場に即したオフセット定盤及びクランプ、システムとの契合について構想、設計を完了し、プロトタイプの開発基盤を確立した。また、今後の課題として、本年度の実験で問題が発生し、解決することができなかった凹形状の曲げ加工部材に溜まった冷却水の除去方法について「本装置の無人運転で現場適用」を考えると、自動除去を行う必要性があることから、平成7年度の開発課題として抽出ができた。
 以上の結果から、本事業の成果は、造船技術、造船関連技術の向上及び我が国造船業の発展に寄与するものと思われる。





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