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■事業の内容

(1) 船上荷役装置の研究開発
[1] 実用型試作機器等の設計
 平成5年度研究開発において実施した「実用型試作機器の基本設計」に基づき、本年度は以下の実用型試作機器等について詳細設計を実施した。
 設計に当たっては実用化段階にて具備すべき安全策、異常処理(衝突防止)対策、コンテナ隅金物とツイストロック間の許容寸法とその対策についての考え方を明確にすると共に本実用型試作試作機器にこれらの対策機能を付加した。また、超高速船の動揺に対応可能とするため、自走台車に微小ステアリング機構を付加するとともに、受渡し装置船側ランプに自走台車用ガイドプレート追従機構及びランプ傾斜追従機構を具備させた。
[2] 実用型試作機器等の試作及び試験
a. 自走台車
イ. 性能
 貨積載物としては実用型試作機による検証という目的及び実用型試作機の規模を配慮して、20コンテナ2スタック(4個積)とし、積載重量を最大15トンとした。また、走行速度、加速性能については平成5年度研究の要素機器で定めた値と同一となるよう計画した。さらに、船上甲板〜岸壁間の傾斜を想定して載荷時5°傾斜での登坂能力を有するよう計画した。
・ 走行速度(全負荷時)   80 m/min
・ 加速性能(全負荷時)   0.4m/sec2
・ 台車全長        約4.4 m
・ 台車全幅        約5.15m
・ 荷台全高(最低-最高)  約0.85m-約1.14m
・ 駆動輪×従動輪     4輪×4輪
ロ. 駆動方式
 制御の容易性、安全性等を考慮し、ディーゼル期間駆動油圧駆動方式を採用した。車輪の配慮に際しては積載貨物状態にても安定し、かつ一輪当たりの荷重を約3.1トン以下になるよう位置及び数量を決定した。
ハ. 昇降機構
 コンテナの荷積み、荷降ろしのため、油圧シリンダ方式による昇降機構を設置した。コンテナが安全かつスムーズにべーススタッカ付ペデスタルに積載できるよう配慮した。
ニ. 停止機構
 コンテナ隅金物位置とペデスタル上べーススタッカ位置を4ケ所同時に合わせるため、車輪に油圧ブレーキ機構を、自走台車に油圧シリンダ駆動ローラストッパを、走行台ペデスタル部にも停止位置にローラストッパ受けを設けた。
ホ. 微小ステアリング機構
 各車軸部に旋回ベアリング及びガイドローラを設け、タイロッドで左右の車軸を連結させ、ガイドローサがガイドレールに沿ふことで機械的にステアリングできるようにした。
へ. その他
 直進走行を確保させるため、自走台車の側端部に8個のガイドローラを設置し、ガイドレールに沿って直進可能となるよう計画した。
(b) 受渡し装置
 受渡し装置は受渡しステージとランプウェイ及びこれらの駆動用油圧装置で構成し、受渡しステージ上にコンテナ4個を積載できるペデスタルを設けて自走台車のコンテナ移載試験に伏せるものとした。受渡しステージの高さ調整はジガーシリンダーで駆動し、本船の喫水に合わせた昇降を可能とした。自走台車の腹打ちを考慮してランプウェイ先端部の傾斜及び先端フラップを設け、本船の動きに追随するようにした。
(c) 走行架台
 自走だいあゃによるコンテナの船上への荷積み、荷降ろしの荷役時間の確認及び操縦装置による各装置を統合した自動化運転の確認を目的として超高速船の甲板を模擬した設備や形状寸法を決定し、ペデスタルトップにはコンテナ緊縮金物としてツイストロックを取り付け、ツイストロックの嵌脱のために油圧シリンダ駆動の一斉緊縮装置を装備した。
(d) 操縦装置
 操縦装置は自走台車、受渡し装置、一斉緊縮装置における各縁覚制御装置、通信ユニット、各種センサ、及びワイヤレステレメータ遠隔制御器で構成した。
イ. 自走台車用遠隔制御装置
 コンテナ荷積み、荷降ろし作業を行う際に自走台車を制御する装置で、受渡し装置と一斉緊縮装置を集中制御するコントロールステイションの役割も果たすものとした。
ロ. 受渡し装置用遠隔制御装置
コンテナを荷積み、荷降ろしする際に走行架台との受渡しを行うのに使用するランプウェイ及びガイドフラップの差動制御を対象とした。
ハ. 一斉緊縮装置用遠隔制御装置
 走行架台上のコンテナを一度に固定するために使用する緊縮装置の作動制御を対象とした。
ニ. ワヤレステレメータ遠隔制御器
 パネル上に各種スイッチ類やランプ類及びジョイスティックを設けた構成とし、防塵・防雨構造で操作の確認が容易に行えるものとした。通信ユニットを2台構成として良好な位置に配置し、制御信号・確実に送受信できるようにした。また、通信異常に対してはシステム全体を非常停止させて外部に異常警報を発するようにした。
ホ. センサ
 自走台車の位置情報や障害物情報用に自走台車用センサーを、ランプ角度情報や停止位置情報用に受渡し装置用センサーを、緊縮装置作動情報やコンテナ有無情報用に一斉緊締装置用センサーを装備させた。これらのセンサーにより、自走台車の速度制御、位置制御、衝突防止制御等を定めたシーケンスに従って実行させるようにした。
(e) 奥の院引き込み機構模型
引き込み中の安定性の検証、パレットの連続引き込みなど本機構の基本的性能を確認するための模型を試作した。
a. 試験
 本年度実施した以下の試験により、平成4、5年度研究開発で抽出された技術検討課題及び本年度研究開発での実用型試作機器等の検証・確認項目について数多くの知見を得た。
(a) 各種機能確認試験
 自走台車を受渡し装置〜走行架台上にて遠隔手動または遠隔自動にて運転し、自走台車、受渡し装置、走行架台、操縦装置の4者間のマッチング及び制御を含めた各種機能の確認として試験を実施した。
(b) 自動荷役
 走行架台を超高速船甲板と見なし、受渡し装置〜ランプウェイ〜走行架台で自走台車を遠隔自動運転し、上下2段積み2組(2スタック)のコンテナの荷役オペレーションが確実に実行されることを検証。確認するとともにリサイクルタイムの計側を実施した。
(c) 奥の院引き込み機構確認試験
 3通りの荷重分布状態にて、コンテナ引き込み速度、引き込みトロリ及びフックの嵌脱機能等の各種機能確認試験を実施した。
[3] 実用型高速荷役システムの基本計画
 平成4、5年度研究開発で得られた成果並びに本年度に実施した実用型試作機器等の設計、試作及び試験により得られた知見を盛り込み、高遠荷役システムの実用化に対応可能な自走台車、受渡し装置、操縦装置、船上装置について基本計画を実施し、仕様・要目表としてまとめた。

(2) 係留・離接岸システムの研究開発
[1] 制御シミュレーション
 平成5年度までに実施された、船首部伸縮アーム及び把持機構の概略設計結果及び超高速船の動揺シミュレーション結果に基づいて、船首部伸縮アーム及び把持機構部の位置決め動作についてコンピュータをもちいた制御シミュレーションを実施し、システムの実用化の検討を行った。
a. 制御シミュレーション用ソフトの設計と作成
 制御シミュレーションの評価用プログラミングソフトの基本設計、詳細設計を実施し、ソフトを作成した。
b. 総合シミュレーション
 基礎シミュレーションを実施、総合シミュレーション用制御アルゴリズムを検証の上、追尾・把持・接岸・係留・離岸の各プロセスについて総合シミュレーションを実施した。
 種々のシミュレーションを行った結果、総合的に最も良好なケースはPIDコントローラと1次フィルタ+船速利用先行信号系の構成であることが分かった。また、接岸プロセスでは、油圧回路内の異常圧力発生、過大負荷発生等を監視しながら、船体を安全に引き寄せる状況をシミュレーションにより確認した。
[2] 水槽試験における船首部伸縮アームの把持実験
 実機の挙動を模擬した伸縮アーム及び縮尺模型船を用いて水槽での把持実験を計画し、実験装置を設計・製作して縮尺模型アームを用いた把持水槽実験を実施した。本試験により船体が波浪によって、運動している状態における伸縮アームのシミュレーション計算の定性的な傾向が実験と良く一致し、再検討を要するところが一部あるものの本方式のシステムが原理的に成立することや制御アルゴリズムの有効性が確認できた。
[3] 縮尺模型によるアーム先端把持機構の作動機能の確認
 アーム先端の把持つ機構が確実な把持・離脱機構を有し、かつ超高遠船の上下動揺、超高速船とアームの相対角度の変化等に円滑に追従できる機構であることを縮尺模型を製作して、把持・引き寄せ、押し出し・緊急離脱等の各部の作動機能を確認した。
[4] 位置検出装置の性能確認試験
 船首部伸縮アーム把持部船体の位置検出装置を模擬した測距計測システムを設計・製作し、位置検出装置の基礎特性や波浪中の性能を確認するとともに、位置検出装置の開発設計に必要なデータを取得した。
[5] 開発設計
 これまでの研究開発成果を基に、より詳細な検討を行い、船首部伸縮アーム、船尾部係留装置、制御装置、位置検知装置からなるシステム全体の開発設計を実施した。特に船首部伸縮アーム駆動系油圧装置の船体追従能力について動力の検討からポンプ油量 840 1/min、動力 180kWという数値が導かれ、アーム先端把持機構の改善点、制御装置のハードウェア構成やソフトウェアのアルゴリズムをまとめた。
■事業の成果

超高速船を利用した高遠物流システムの実現には、船とともに陸上輸送と海上輸送の接点となる港湾における荷役の高速化が重要な鍵であると指摘されているものの、現在のところ利用可能と思われる適当な装置設備がないことから、本船の実用化に合わせて高速荷役システムを構築することが重要な課題となっている。この課題を克服するため、当会では超高速船の特性に適合し、かつ在来の荷役システムとは異なる高速荷役システムの開発を行うことを目的として、船上荷役装置及び係留・離接岸システムについて研究開発を行った。
 船上荷役装置の研究開発では、前年度の研究開発で選定した「自走台車方式」において予想された各構成要素機器の検証すべき技術課題について、20フィートコンテナ4個を運搬可能な自走台車及びこれの操縦装置等を設計・試作の上、陸上試験を実施し具体的な評価を行った。
 その結果、各種性能及び機能についてほぼ所期計画どおり達成できていることが検証されるとともに、残された技術課題を把握し、解決のために必要とされる技術開発の方向づけを行うことができた。また、高速荷役システムの核心となる要素機器が、今回の試作を通じて実際の姿として機能し、荷役システムの挙動を現実の姿として把握できるようになったことにより、荷積み・荷降ろし合計1時間という技術開発目標の達成に、実感として一歩近づけたと自信を持てたことも今回の研究開発の大きな成果であった。
 係留・離接岸システムの研究開発では、前年度までの成果を踏まえ離接岸時の制御シミュレーションを実施してシステムの動作状況を調査し、水槽での模型実験を行ってシステムの有効性を確認し、さらなる詳細検討を行ってシステム前田の開発設計までを実施した。その結果、これまで非常に難しい課題とされていた悪天候下でも自動で係留・離接岸できる有望システムを提案し、それが実現可能であること具体的に示して、TSLの港湾における所要時間の短縮という目的に寄与することができたことは大きな成果であった。
 以上、本研究開発で得られた成果は、港湾における作業の効率化を通じて、超高速船の実用化の推進に大いに寄与するものと期待され、我が国造船産業の発展に資するものと思料される。





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