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■事業の内容

(1) 航海事故防止対策に関する現状調査
[1] 海難事故発生状況及び原因の調査
 海難事故の発生状況及びその原因について、海難審判庁の発行資料、船舶保険連盟の損害統計記録、国際油濁防止基金の記録等を調査し、内容を詳細に解析した結果、衝突件数が最も多いことを明らかにした。
[2] 各船舶会社の座礁衝突防止対策の現状調査
 現状の座礁衝突防止対策を調査するため、アンケートの質問形式を検討し、各船舶会社・学校関係38箇所に送付し、33箇所から合計41件の回答を回収した(返却率87%)。これらの回答の分析を行った結果、現状の衝突予防機器に対する不満が83%にも達する等、貴重な意見を集約することができた。
[3] ユーザー側からみた自動運航システムのあり方
 上記のアンケートでは、ユーザーの望む今後の自動運航システムのあり方についても質問を行い、各船舶会社・学校関係から回収した回答を集計して分析を行った。大洋航行に較べて狭水道や港内航行になるほど操船者の判断を必要とする意見が増し、また船位、保針、見張り、避航の順に同様な意見が多くなる傾向が明らかとなり、今後の自動化の方針に対する重要な示唆を得た。
[4] まとめ
 上記の分析結果をもとに総合的な検討を行った結果、現在装備されている機器の性能レベルの満足度は低く、当直者の技量に頼る部分が多いとの意見が強く、レーダーやARPAの性能向上と機能の追加、海図上での船位表示や警報機能の実現化が要求されていること、その他今後の運航支援システムに対する要望が得られた。

(2) 統合航海情報システムの概念設計と開発要素の抽出
 文献・ユーザーを対象とし現状調査(a項)、問題点、開発要素の抽出(b項)、及び問題点、開発要素の解析(c項)を行い、概念設計とまとめ(d項)を実施した。その結果として、航路監視システム、測位システム、方位測定システム、船速測定、操船システム、気象情報提供システムトランスポンダと無線システム等に関する問題点を整理し、統合航海システムに期待される事項をまとめた。

(3) 統合航海情報システムを使用しての自動運航シミュレーション
 上記(3)順の検討に基づき、統合航海情報システムを使用しての自動運航シミュレーションについて、問題点、開発要素の抽出(a項)、問題点、開発要素の解析(b項)、及び概念設計とまとめ(c項)を行った。自動運航システムとしては、先ず情報のセンシングと処理速度をクリアすることが課題であり、操船者とシステムが合理的に機能分担を行い、良好なコミュニケーションを確立することが重要であることを確認した。これらは来年度の操船シミュレータのシステム構成と計画作成に反映させる。
■事業の成果

海難統計によると、船舶の重大事故の過半数が座礁、衝突等の航海事故であり、その原因の大部分がヒューマンエラーによる、と分析されている。現状では操船者への適切な情報提供や避航に対する航海助手段が確立されておらず、一方ではGPSや電子海図、レーダートランスポンダ等の機器や関連技術の進歩が著しいにも関わらず、これらを統合化したシステムは未だ考えられていない。
 本研究ではこれらの情報・技術を統合処理して自動避航を行うことにより、座礁、衝突等の航海事故防止システムを構築し、ヒューマンエラーによる事故頻度を減少させることを目的とした。
 このため、初年度として先ず、海難事故がどのような原因で発生し、ヒューマンファクターとどのように関わっていたか、また各種の航海情報機器をいかに統合化するのがよいか、等を検討するため、文献調査や関係者に対するアンケート調査等から研究を開始し、研究の方針がほぼ妥当であることを確認した
 また、今後はシミュレータを用いて本研究を行うことを計画しているため、国内外でいかなる規模の操船シミュレータがいかなる目的で用いられ、どのような教育、訓練及びその評価などがなされているかも調査した。
 本研究の最終目標はヒューマンエラーを最も少なくするような運航システムを構成することにあり、そのために使用するシミュレータの基本的な概念設計が出来上がり、シミュレーションを行う上で必要となるシナリオの概念も構成された。
 以上により、本年度の研究目的はほぼ達成され、明年度に予定されているシミュレーションヘの足掛かりを得ることができた。





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