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■事業の内容

(1) 有害液体物質の海中モニタリングシステムに関する調査研究
 有害液体物質の防除活動の一環として実施されたモニタリングは主に、[1]防除計画の策定、[2]防除作業実施状況の把握、[3]処理効果の判定、環境への影響評価の対応を図るために実施されるもので、これらを効果的かつ迅速に実施するためのモニタリング体制はシステムとして考える必要がある。そこで有害液体物質モニタリングシステムは運用マニュアル、海中センシング装置、計測演算装置、検知管、採水採泥装置、分析バックアップ体制、その他観測機器等から構成されるものとした。
[1] 有害液体物質モニタリング機器の試作
a. 海中センシング装置センサーの再現性確認実験
 昨年度開発、実験した微生物センサーの再現性を確認するため、次の二つの実験を行った。
・ 膜を交換せず、有害液体物質の濃度を変化させる実験
・ 有害液体物質の濃度を一定とし、膜を交換する実験。
b. 有害液体物質モニタリング機器の試作
 昨年度に引き続き、海中にセンサーを直接投げ込み、その測定結果を船上においてリアルタイムで得られる手法の検討を行い、この結果をもとに海中センシング装置の基本設計と試作器製作のための詳細設計を行った。
 この詳細設計に基づき海中センシング装置を試作した。
[2] モニタリングシステムの確立
 有害液体物質モニタリングシステムのうち、実際に海域に存在する有害液体物質をリアルタイムで計測する装置が海中センシシング装置であり、これを円滑に機能させるために必要な有害液体物質測定方法、判定方法等についての検討を行った。
 以上の検討結果と過去2ヶ年の検討結果を踏まえて、有害液体物質モニタリングシステムのうち海中センシング装置をとりまとめることができた。
(2) タンカー等の消防システムに関する調査研究
[1] 消防活動の手法等に関する事項の検討
 ケミカルタンカー等の消防システムの確立を図るため必要となる基礎資料を得ることを目的とし、以下に示す国内外の消防活動の手法等に関する調査を行い、消防活動の各種手法及び対応策について検討を行った。
a. 消防システムの現状
 米国を中心に海外におけるタンカー等の消防システムの現状を調査し、消防システムの構成について検討を行った。
b. ケミカル物質の危険性評価等
 ケミカル物質の危険性評価法、作業者の保護装備基準の現状を調査し、有害ガス等の対応策について検討を行った。
c. ケミカル物質の拡散防止手法
 ケミカル物質の拡散防止手法の現状を調査し、拡散防止及び拡散軽減の処置手法について検討を行った。
d. ケミカル物質の消火手法
 ケミカル物質の消火手法の現状を調査し、ケミカルタンカーの火災における消火活動の原則、消火の判断及び消火手法について検討を行った。
e. 船内捜索手法
 ケミカルタンカーの火災における人命救助、船内捜索手法について調査を行った。
f. 消火後の貨物の処置
 ケミカルタンカーの火災消火後のケミカル物質の回収等について調査し、火災鎮火の確認とケミカル物質の回収に関する検討を行った。
[2] 海上事故に対する救難支援システムの構築
 ケミカルタンカー等の事故に対する救難は人的、物的の両面を含んだ極めて複雑な問題であり、救難責任者の行う各種の判断、意思決定は極めて困難な状況である。このため、救難という活動の客観的な体系化を行い、救難責任者の行う各種の判断、意思決定を支援する救難支援システムを構築する必要がある。
 本調査研究ではこのシステムの実用面を重視し、これを事故事象に関する情報を提供する支援システム、救難活動の対応能力に関する情報を提供する支援システム、戦略選択等の意思決定を支援するシステムの三つに分け、以下に示すとおり各々の検討を行うとともに、最後にこれらを統合し救難支援システムの構築を行った。
a. 事象情報提供システム
 事故対応を考えるとき最も重要な障害要因となる「爆発がおこるか」に代表される燃焼関連危険と「毒性の危険はどうなるか」に代表される燃焼関連危険の二つの事故事象の危険性に支援情報を絞り、これらの予測を含めた情報が提供できる手法の検討と事故事例によるその検証を行った。
b. 対応能力情報提供システム
 事故事象に含まれる障害要因と事故に対応する戦略により、事故対応の活動手法やその勢力、装備等は異なる。事故発生後、これらを迅速、的確に判断するための手法の検討とその例示を行った。
c. 意思決定支援システム
 事故の現状と事象情報提供システムの支援情報を受け、事故対応としてとるべき戦略の優先順位を客観的に決定するための手法の検討と事故事例によるその検証を行った。
(3) 大規漠油流出事故の対応のための防除技術の研究開発
(油処理剤による最適防除手法に関する調査研究)
[1] 油処理剤の海洋生物影響評価試験
a. 油処理剤の毒性試験(毒性低減試験)
 原油のみ及び、原油+濃縮型油処理剤処理油、原油+自己攬枠型油処理剤(A,B)処理油を用いて、各々の混合処理油、下層処理油を0ヵ月、1ヵ月、2ヵ月放置後のヒラメ稚魚の半数が死亡する添加量を調査した。
b. 油処理剤処理油の毒性の迅速評価手法の開発
 バフンウニを用いて油処理剤処理油の添加重、接触時間の違いによるダメージの程度を調査することにより迅速評価手法の検討を行った。
[2] 油処理剤散布による影響評価試験の結果を踏まえ、日本近海における原油大規模流出時に油処理剤を使用した場合を想定し、油処理剤により処理された油の拡散状況及び海洋生物に対する影響範囲を既存のシュミレーションモデルを利用して検討した。
a. シュミレーションの前提条件
(a) 油種
アラビアンヘビー原油
(b) 流出量
 10,OOOKl
(c) 流出場所
 沖合1.5km
(d) 気象条件
 無風状態
(e) 油処理剤散布条件及び油処理剤の効果
 流出24時間後散布、100%分散
(f) 分散した油処理剤処理油の海中鉛直油分量分布
 海面下5m及び1mの2通り
(g) 油の移流拡散過程における変性
 初期蒸発を考慮、他の変性効果は無視した。
(h) 海洋生物への影響濃霧の判断基準と影響範囲
 ヒラメ稚魚に対する毒性試験結果のLC50値を引用し、油分量1,000mg/lが24時間以上継続する範囲とした。
b. シミュミレーションモデル
 2次元単層モデルで表現し、移流嚏g散はFayのモデルに従うものとした。
c. ケーススタディー
 沖側流速0.25、0.50、1.00、1.50ノットとし、拡散係数を1.0、5.0、10.0平方メートル/秒とし検討した。
[3] 最適防除手法の検討及び油処理剤使用マニュアルの作成
 [1]及び[2]での検討結果を踏まえて、最適油処理剤散布装置、散布条件等について検討するとともに、油処理剤による最適防除手法を検討し、油処理剤使用マニュアルの作成の検討を行った。
■事業の成果

近年の海洋環境の保全に対する内外の認識の高揚に伴い海上防災の対象とする分野も拡大しつつある。しかしながら海上における防災技術は未完成の分野が多く、効果的な技術の開発実用化が望まれている。
 このため、本事業により、[1]有害液体物質の海中モニタリングシステムに関する研究、[2]タンカー等の消防システムに関する調査研究、[3]大規模油流出事故の対応のための防除技術の研究開発を行い、海上防災に関する基礎技術の解明を図ることが出来、また各分野にわたる科学技術を取り入れた最適防災技術を調査研究したことで所期の成果をあげることができた。今後、この成果を活用することにより、海洋汚染及び海上災害の防止に寄与するものと思われる。





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