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■事業の内容

(1) 小型高速艇用可変ピッチプロペラの開発研究
[1] 可変ピッチプロペラ用プロペラ翼の開発
 本年度製作するプロペラ翼4種について、昨年度の研究開発の成果と、揚力面理論に揚力等価法を加えた電算プログラムによる推定計算とを併用することにより設計を行い製作した。設計仕様及び目標性能は以下のとおり。
エンジン馬力/回転速度−−−− 35ps/6800rpm
プロペラ回転速度−−−−−−−6350rpm=105.8rpm(ギア比:14/15)
プロペラ羽根調節角度範囲−−−9度
プロペラボス直径−−−−−−−50.0mm
翼数−−−−−−−−−−−−−2枚
艇速−−−−−−−−−−−−−80km/h=22.22m/sec=43.2km
[2] 翼角変更機構の開発
 前年度の問題点を検討し、開発仕様を決定した。この中で翼角変更範囲は、可変ピッチプロペラの種々有効性のうち気象状況やこれに伴う水面状況などの環境条件の変化に対するプロペラ性能の最適化及び加速性能の向上に関する有効性を利用することを目的として、9度とした。よって機構上の設定可能な翼角範囲も同じとし、2ケース、角3組を試作した。
[3] 操縦機構の開発
 前年度の翼角変更用操作レバーは、実際の航走中に操作をすることはかなり難しかった。よって本年度は小さな操作力で操作でき、確実で応答性の高い操作性と試験を行う際の様々な条件に対応できる機能を持つことを前提に、航走中における操縦性はもとより実際のレースでも使用することのできる操縦機構の確立を目標に設計を行い、2ケース、各3組を試作した。
[4] 係留試験
 水上での本格的な実走試験の前に、試作した翼角変更機構と操縦機構を標準タイプの艇体に取り付け、地上及び水槽内係留状態において作動確認及び検定を行うとともに、翼角変更に要する操作力等の参考資料を得ることを目的に実施した。
[5] 実走試験
a. 可変ピッチプロペラ用プロペラ翼の比較に関する試験
 本年度試作した翼角変更機構とその操縦機構が航走状態において支障なく作動することを確認し、4種類の可変ピッチプロペラについての航走性能及び翼角変更操作力に関する評価と2種類の操縦機構の操作性に関する評価を行うことを目的に実施した。
実施場所 : 桐生競艇場
実施日  : 第1回 平成5年9月 9日〜10日
第2回 平成5年9月29日〜30日
試験内容 : 直線走行試験(最高速度、定速走行、翼角変更、翼角固定加速、翼角変更加速各試験)
周回走行試験(翼角固定周回、翼角変更周回各試験)
b. ギヤケースの前面投影面積が航走速度に及ぼす影響に関する試験
 プロペラ翼の比較試験で当初目標の艇の速力80km/s(約22m/s)を達成することができなかったため、その原因として考えられるギヤケースの前面投影面積が及ぼす影響を調べるため、実走試験を実施した。
実施場所 : 桐生競艇場
実施日  : 第1回 平成5年10月27日
第2回 平成6年 1月26日
第3回 平成6年 1月26日
試験内容 : 速力試験、周回試験
c. 可変ピッチプロペラの有効性に関する試験
 a.の可変ピッチプロペラ用プロペラ翼の比較に関する試験において、4種のプロペラのうち最も性能が良いと判断されたプロペラに関して更に航走試験を行い、可変ピッチプロペラの航走性能への影響を調査した。
実施場所 : 桐生競艇場
実施日  : 第1回 平成5年10月28日
第2回 平成6年 1月26日
試験内容 : 速力試験、加速試験、減速試験、周回試験
[6] とりまとめ
 本年度開発研究の結果、以下のとおりであった。
a. 速度の確保
 直線走行速度は、前年度のプロトタイプが17m/secに対し21m/secに到達したが、現行艇の22m/secには至らなかった。周回速度においては、現行の固定ピッチプロペラで3周1分50秒に対して、本年度試作品で1分57秒〜2分00秒と改善はみられるものの、特に翼角変更による速度向上効果については有意と判断できるレベルに到達しえなかった。しかしながらプロペラとギヤケースの抵抗が速度に影響を及ぼしていることが判明しているため、今後は改良等を行うこととした。
b. 翼角変更機構の信頼性の向上
 本年度はチェーン・スプロケット機構を採用することにより、機構の単純化による信頼性の向上とともに前面投影面積減少に寄与させた。プロペラ翼の変更にはカム機構を採用して遊びを減少させ、変更精度を向上させるとともに、操作力の低減を図った。これらにより実用化検討の基礎となる機構を得ることができた。
c. 操縦機構の確立
 現行スロットル・ボックスをスライドさせる方式と翼角変更とスロットル操作とを2重レバーにした方式との2方式を並行試作した。ステアリング・スロットルに続く3番目の操作としての翼角変更操作をスムーズに行い、その効果を発揮せしめるには、操縦者が習熟し易く操作力の小さい機構について、より完成度の高い機構の開発が必要であることが明確となった。

(2) 小型高速艇用ウォータージェット推進機構の開発研究
[1] 艇とウォータージェットシステムの相関検討
 艇の推進にとって大きな抵抗となっている吸入ダクト形状の改善、ウォータージェットの取り付け位置の研究を行い、理想的なシステムの構造を検討した。
[2] 実用化設計及び主要目の決定
a. 実用化タイプのウォータージェットシステムの設計
(a) ウォータージェットシステムの設計
 前年度試作したプロトタイプより得られたデータを基に、実用化タイプのウォータージェットシステム(遠心型40ps)を新規に設計した。ポンプタイプについては、流体力学的見地及び機械加工上の工作が容易である点を考慮し、遠心型ポンプとした。但し加速性能等については斜流型の方が有利であるため。斜流型に近い設計点で遠心型ポンプの設計を行った。
(b) 現用ウォータージェット40ps用インペラーの設計
 ウォータージェット推進機構の実用化と速度向上を目的に、エンジンをヤマト203型(33ps/6,600rpm)からヤマト203SS型(40ps/7,800rpm)に変更するため、それに併せて斜流型、遠心型インペラーの設計を行った。
[3] 詳細実用化設計と製作
 上記(a)、(b)及び前年度プロトタイプを基に詳細設計を行い、斜流40ps型改良型、遠心40ps改良型及び遠心40ps新型を製作した。
[4] 水槽試験
a. エンジンの負荷試験
 本年度製作分は重心を低くして操船性の向上を図るためキャリボデーの全高を低くするよう設計したため、エンジンの排気特性が変化することが懸念された。よって確認のため動力試験を行った。その結果、斜流型、遠心型とも40ps以上の出力が確認され、満足のいく結果となった。
b. 水槽試験
 航走試験に先立って水槽試験にて単体テストを行った。その結果、遠心40ps新型を除き所定の性能を発揮した。
[5] 航走試験
 実際の競走艇にウォータージェットシステムを搭載し航走テストを行い、競走艇用としての諸性能の確認を行った。
実施場所 : 住之江競艇場
実施日  : 第1回航走 平成5年 7月24〜25日
第2回航走 平成5年 8月21〜22日
第3回航走 平成5年12月25日
第4回航走 平成6年 1月18〜19日
第5回航走 平成6年 2月14〜15日
実施内容 : 速度、加速、減速試験
[6] 総合解析
a. 速度性能
 第1回航走試験から第5回航走試験までに、斜流型が平均63.7km/hから77.3km/hへ遠心型が平均57.6km/hから80.2km/hまで速度が向上し、目標の80km/hが達成できた。今後は旋回性能及び直進性能等の操縦性に重点を置いて開発を行うこととした。
b. 加速性能
 第5回航走試験では、プロペラ艇と比較して斜流40ps改良型について、0→100m加速は優れており、遠心40ps改良型についてもほぼ同等の性能がでていることが確認された。
c. 減速性能
 斜流40ps改良型と遠心40ps改良型と比較し、遠心40ps改良型の方が制動距離が短いことが確認された。理由としてはポンプケーシングの内面形状の違いによるものと判断された。
d. 操縦性能
 吸入ダクトに取り付けているフィンの改良を行い、直進性能及び旋回性能の向上に努めた。その結果、操縦性能についてはかなり向上したと判断されるが、今後は実際の競技形態に基づき航走可能なようにさらに改良を行うこととした。
e. 航走時飛沫
 艇とボリュートケーシングの間隙に水切り板を取り付け、また吸入ダクトに安定板を取り付けることにより、航走時飛沫はかなり抑えられていると判断されたが、更に改善が必要と思われる。
■事業の成果

本事業は小型高速艇の推進機構の性能向上に関し、現在最も有効な手段として考えられる操縦性に優れた可変ピッチプロペラ及びウォータージェットの利用について研究を行い、安全・高性能な推進機構を開発することを目的に実施した。
 小型高速艇用可変ピッチプロペラの開発研究においては、タイムラグをできるだけ小さくした翼角変更機構の研究を行い、小型高速艇用の可変ピッチプロペラを開発することを目的に実施しており、本年度は応答性の速い翼角変更機構のプロトタイプを製作し、その機能と性能を確認することを目的として開発研究を行った。その結果、速度向上効果についてはまだ有意と判断できるレベルには達することはできなかったが、翼角変更機構及び操縦機構については、性能の向上と問題点の摘出に大きな成果を得ることができた。
 小型高速艇用ウォータージェット推進機構の開発研究においては、ウォータージェットの安全性を十分に発揮でき、しかも現用のプロペラシステムと同等以上の推進機構を持つ高速艇用のウォータージェットシステムの開発を目的として研究を行った。本年度は昨年度開発したプロトタイプを基に改良を加えつつ航走試験を実施したが、その結果、目標速度の80km/hを達成することができた。また艇とウォータージェットとのマッチングについてもさらに向上しており、昨年度研究開発で明確になった種々の問題点も改善されたと考えられる。操縦性については直進安定性及び旋回安定性ともにかなりの向上がみられたが、実用化までには実際の競技形態に基づいた航走が可能なように改善を行う必要もあり、今後の開発研究の課題となった。しかしながらこれら実用化に必要な機構上の改善及びそれに伴う設計上の見直しについて明確にすることができた。
 以上、本開発研究の実施により、小型高速艇の推進機構についてこれまでにない新たな分野での技術的を成果を収めることができ、造船関係産業の発展に大きく寄与するものと思料される。





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